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ナガテと鏡川
カガリは翌日退院してやらなければならない仕事を始めた。
社長は入院を口実に出来るだけオファーを断ってカガリを休めた。
東都湾の黒い大地は白い蒸気と火口からの夥しい噴煙と噴石を吐き出していた。
毎日この火山の様子は伝えられこの国でもトップニュースになっていた。
ところが一部の地域から火山活動が活発化し始めたというニュースも聞こえ始めた。その現象は爆発的な活動ではなかったが、日ごと増え続け全国的に広がって行った。
しかし黒い大地だけは日々成長し押し上げられ海抜も10m以上になっていた。ただ火口からの噴出物は減って行った。
ナガテは映画の出演が決まり読み合わせに入っていた。
みんな火山の話題で持ち切りだったが、たまに役者仲間からカガリの事を聞かれても興味ない顔をした。
カガリの人気は全国的に広まっている。
マネージャーも付き気楽に街中を歩けなくなっていた。
仕事が終わると明日の時間と内容を聞くといった日々を送っている。
本当は明日の事すら分からなかった。
呼ばれれば鎮めに行く事が...ここに来た本来の目的だから...
でも最近突然、悲しみが込み上げて胸が苦しくなる事が増えた。
ヒババが呼んでいると感じたが、
何処で何をどうすればいいのか全く分からなかった。
それにナガテともすれ違いが増え、会えない事も原因の一つだった。
カガリは検査を2週間に1回は受診しに鏡川医師の所へ行った。
若干は大きくなったものの胎児の状況は殆ど変化がなかったが、鼓動の強さは規則正しく日々激しくなっているようだった。
カガリは何となく感じていた。
お腹の赤ちゃんと火山の噴火は同調していると....
ナガテは映画の撮影で忙しかったが出来るだけ鏡川医師の所に行ってカガリの状態を聞きに行っていた。
その日はオフでカガリと約束していたが急用で会えなくなったと連絡があった。
ここの所、電話でしかカガリの状態を聞いてなかったので鏡川医師と会うことにした。ちょうど彼女もオフで撮影された胎児の状況など詳しく聞く事が出来た。
せっかくのオフに時間を作ってくれたので食事に誘った。
少しアルコールが入り北海島の話で盛り上がった。
鏡川は懐かしそうな顔で話したり頷いたりしていたがいつの間にかあの病室のあの時の顔に変わっていた。
ナガテはカガリのことがあるのでそんな気は一切なかったが鏡川は積極的だった。どうしても見せたいナガテの動画や写真があるから一緒に見たいと家に誘った。
鏡川があの島でナガテの捜索ボランティアに参加した時の様子が映った写真が沢山あった。彼女は懐かしがりながら眺めていたが、ナガテは始めて自分の捜索の様子を見て目頭を熱くした。
その中で一枚だけ気になる写真があった。
島の裏手にある岩場の狭い海岸に鏡川が降りて撮った写真だ。
そこはナガテとカガリがウニや牡蠣を食べ熱く交わった場所なのでよく覚えていた。
その写真にはウニと牡蠣の食べ殻が写っていた。
間違いなくナガテとカガリが食べた物だし2人があの場所にいた証拠だと思い胸が熱くなった。
夜も明日を迎えようとしていた。
ナガテはそろそろ帰ろうと上着を取りソファを立つと鏡川が抱きついた。
「先生...」
ナガテは強く言えなかった。
182cmのナガテの唇を合わせようと162cmの鏡川は精一杯背伸びした。
ナガテは彼女の胸の膨らみを感じながら強く抱きしめ唇を合わせた。
堰を切ったように感情が流れ出し、もう止める術はなかった。
お互いを激しく求め口に含み口を濡らし腰を滑らせ濡れていった。
彼女は何度も声を上げ足先を震わせナガテは彼女の中で何度か長く射精した。
「安全日だから...」
彼女はティッシュで拭きながら呟いた。
2人が肌を合わせたまま寝入った頃、地鳴りが始まり東都湾の火山が爆発し山体崩壊を起こした。強い火山性地震も起こった。
2人は飛び起き20階にあるマンションが大きくゆっくりと揺れる中、窓から外を見ると東都湾の火山から白い水蒸気と黄色い血液のような溶岩が溢れ出し海面を明るく照らしていた。
携帯音が部屋に鳴り響き
中々揺れは収まらなかった。
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