再会

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再会

ボクはよろめくように近づき2人を抱きしめた。 すると突然地鳴りが起こり揺れ始めた。 上から雪の塊や岩がボトッ、ボトッと落ちて来た。 カガリはボク達を手招きして裏の洞窟へ導いた。 洞窟の中に走り込むと揺れは少しずつ収まった。 あたりを見回すとテーブルや寝床などは以前のままだった。 「こんな洞窟なかったと思いますが... あの人が... ...カガリさんですか?」 嶋崎が不審そうに言った。 カガリは奥の寝床に座って食い入るようにボクを見ていた。 ボクもカガリを見つめた。 あの2人の時間が頭の中を早送りでよぎって行った。 カガリは長かった髪を肩の位置まで切り揃えて身体もふくよかになったように見えた。 ヒババは椅子に座って後ろを向いていた。 「ナガテ...... 聞きたい事に答えるね...」 カガリはボクの心を見透かすように突然話し始めた。 「あなたがこの島の怒りを鎮める事が出来る唯一の人だった。 あなたがくれた玉粒(ギョクリュウ)(ギョク)は実る事が出来た。 だからあなたはこの島の怒りを収める力を得たの。 わたしがあなたの身体を(ほこら)に運んでこの島に預けたの。 そうすればこの島はあなたを受け入れて島は平穏を取り戻す筈だった。 ...でも何故だかあなたは目覚めてしまった。 しかもあの水を飲んだ。 あなたと私の時間を変える扉の鍵水(かぎみず)。 だから...あなたは自分の時間に戻り容易に見つかる事が出来た。」 「それってボクは一体どう言う役割だったんだろう? まさかこの島を守る為の生け贄って訳ないよね?」 「そうだよ。分からなかったの? もう何度も私たち4人でやって来た事じゃない! 今見えてる事じゃなくてナガテの言魂(ことだま)を受け入れてみて。 今まで何度も見せてくれてる筈だから。」 カガリはいつの間にかナガテの手を握っていた。 「カガリよ... お前はナガテと行くのじゃ。 そうしてわしが教えた様にしてこの怒りを鎮めこの先2,000年の悠久をもたらすのじゃよ。3人で...」 ヒババはそう言うと出て行った。 ボクは訳が分からず、 「一体どうすればいい? 混乱し過ぎて何もかも理解出来なくなっている。 カガリ... お願いだから分かるように説明してくれないか。」 「うん... でもとにかくここを出てあの家に行こうよ。 出来るだけ海岸に近い方がいいから。 話の続きはそこでしましょ。」 カガリはそう言うと出かける準備を始めた。 嶋崎はうつらうつらと居眠りをしていた。 「こいつ気楽でいいな〜」 とナガテが言うと、 「あまり聞かせたくない話だから寝て貰ってるのよ。」 とカガリは答えた。 「じゃぁ、行きましょ!」 カガリが言うと、 嶋崎はその言葉に反応した様に寝ぼけ眼で立ち上がった。 滝の水溜め所で水を汲み(ほこら)に水を供えて手を合わせた。 石仏は確かにカガリの丘を向いていた。 そして下の海岸を見ると気のせいか近くに見えた。 カガリはひとつひとつの場所を確認する様に、 そして何かを囁きながらゆっくりと山を降りた。 家に着くと疲れがどーっと出て暫く横になった。 「トウヤさん...トウヤさんってば! 起きて下さいよ...トウヤさん。」 必死の表情で嶋崎がボクを揺り起こしていた。 「どうした!」 ボクは正気に戻ってあたりを見渡した。 すでに薄暗く寒さが部屋に漂っていた。 するとカガリがカップ麺の中身をボリボリと食べていた。 ボクは思わず吹き出してしまった。 「トウヤさん笑ってる場合じゃないですよ! 私もあのボリボリって音で目が覚めたんですけど、 尋常じゃないですよ! 怖いんですけど!」 嶋崎は顔を歪めた。 ボクは起き上がって彼女に 「それ美味しい?」 って訊ねた。 「うん初めて食べたよ...美味しいね。 何かの根っこを海水につけて乾かしたんだよね。」 「うんん...発想は素晴らしいけど根っこじゃない。 でも、もっと美味しく食べれるんだけど... 試してみない?」 「そうなの? じゃぁ試してみたいな。」 ボクはカセットコンロで多めに水を沸かした。 ボクも嶋崎も腹ペコだった。 ボクと嶋崎は雨戸と障子を閉めて防寒した。 夕闇が部屋を染め夜の帳(よるのとばり)が下りた。 カガリは熱くて柔らかくなった麺をぎこちなく箸を操って、 あっという間に完食して更におかわりした。 今まで食べてこなかった食材だからダメだと言っても聞かなかった。 あとはごはん、缶詰かなり食べて予想通りお腹を壊した。 話の続きを聞きたかったがそれどころではなく看病した。 お腹を擦ってやると下腹がポッコリと膨れていて違和感を感じた。 海が明るさを増すと陽は闇を払いながら暖かさを運んで来た。 ボクはカガリのお腹に手を置いたまま寝落ちしたようだ。 カガリの顔は生気を取り戻し熱も引き回復したようだったが起きなかった。 ボクは家から出て水平線を眺めた。 船が向かって来てるのが見えた。 龍男さん...もう来たのかな。 そう思った瞬間、地鳴りがして地面が揺れ始めた。 山鳥がボクの頭の上をかすめるように鳴きながら飛び去った。 家に飛び込むと2人は寝ぼけているのか、畳に両手をついて動けずにいた。 「早く荷物を持って海岸へ降りるんだ! もう収まらない!早く!」 ボクは2人の手を引き外へ出た。 それと同時に家が一瞬の内に崩壊した。 「嶋崎!先に行ってすぐ出れるように龍男さんに伝えてくれ。」 ボクはそう言ってカガリの手を引いて駆け出そうとすると、 「私は行かない! ヒババを置いて行けない!」 と泣きながらボクの手を振り払った。 「ダメだ!ボクと行くんだろう? そう言ってたじゃないか! ヒババだって!」 と言って手を掴んだ。 「いや!離して...ここに残るの!」 とカガリが言った瞬間、 何処からともなくヒババが現れカガリの頬を叩いた。 地の揺れは止まる気配はなく次第に立っていられなくなって来た。 「お前こそ分かってないようだな...カガリ! 何度となく言い聞かせておるのに! ナガテよ、必ずこやつを守るのじゃ! 脇に抱えて連れてお行き! ただし腹は締めるなよ。」 ヒババはそう言うとカガリを睨みつけた。 ボクはカガリを否応なしに抱きかかえヒババに頭を下げて走り出した。 しかし揺れが酷く上手く走れなかった。 かなり大きな岩が次々と木々をなぎ倒しているのが見えた。 ボクは岩に当たるんじゃないかと怖くて仕方なかった。 「ナガテ...下ろして... ごめんわたし自分で走るから。」 カガリは眼に涙をためて言った。 リュックを担いでカガリを抱えて走るのはもう足腰に限界が来ていた。 カガリをゆっくりと下ろして手を強く握り締めて走り出した。 船着き場の桟橋で手を振る嶋崎を見つけた。 後ろの方で岩と岩がぶつかる鈍い音がして湾内にも響いた。 ボク達のすぐ近くを1mほどの岩が転がって行った。 運良く船着き場に辿り着いたけれど桟橋が沈んでいた。 「トウヤさん、まだ何とか渡れます! 海水に浸かってますが板の部分を目印に渡って下さい。」 嶋崎は船の(へり)に掴まり叫んだ。 ボク達は逸る(はやる)気持ちを抑えて一歩ずつ船に向かった。 海岸には岩が押し寄せて大きな飛沫(しぶき)を上げ始めた。 漁船で待っていた龍男はオロオロしながらエンジンを掛け、 いつでも出港出来る態勢を整えていた。 カガリを(かか)えて船に上げ、全体力を使ってボクは乗り込んだ。 その時はもう足腰が萎えて力が入らなくなっていた。 「早く!急いで!早く!」 龍男は気忙(きぜ)わしく叫びながら係留ロープを解き、 フルスロットルで沖合を目指した。 その時、大きな岩が桟橋に当たり木々の破片が浮かび上がった。 ボクは島を振り返ったがもうどうすることも出来ないと思いながら、 ヒババの言った言葉を思い出して涙が溢れた。
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