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崩壊
山頂の雪や岩がスローモーションのように砕け始め岩がぶつかり合う低い音が島全体に響き渡った。
「島の怒りを収める事が出来なかったね....」
涙をためてカガリが呟くと、
「ワシらのせいでこんな事になってしもうた...
カガリ様ご勘弁を...ご勘弁を」
と言いながら龍男は手をこすり合わせた。
「たっちゃんのせいじゃないよ!」
カガリは髪を潮風に乗せながら叫んだ。
ナガテが振り返ると雪帽子島は形を変え始めていた。
麓の木々が倒れて茶色い土埃と白っぽい巨大な石が次々と海へ落ち大きな飛沫を上げ始めているのが見えた。
しかしよく見ると様子がチョット変だ。
地震で壊れ始めたのではなく島が沈み始めているのだ。
ナガテ達が休憩所にした部落跡付近は、もう海に沈みかけていた。
それほど高くはないが島の方から波が次から次に押し寄せて来た。
しかしそれも束の間、今度は潮流が変わり漁船が島の方へ引き込まれ始めた。
何とか流れに逆らうのが精一杯のようでエンジン音が悲鳴を上げた。
このままだと島と一緒に海底に引き込まれてしまう。
船の周りには小さな渦が出来始めた。
その時エンジンが突然止まった。
高熱になり過ぎて内部が焼けてしまったのだろうか?!
推進力を無くした船は海流のなすがままとなり島へ流れ始めた。
「エンジンが冷えれば動き出すかもしれん。
それまでの辛抱じゃがのう。」
と龍男は呑気に言った。
島は半分以上沈みかけ、いよいよ潮流は島へと勢いを増した。
ナガテは徐々に近づいてくる雪が残った頂を見ていると、
人影が動いた様に見えた。
「あっ!あれは?!」
とナガテはカガリを見ながら指差した。
「...うん...ヒババ...」
カガリは目一杯に涙を溜めて呟いた。
(ここはワシに任せてこれからの試練を3人で力を合わせて尽くすのじゃ。
今まで何度もそうやって来た。
心配は無用じゃ。
頭で考えるのではなく魂の行いに任せよ。
ワシの身体はここに沈めるが、必ずまたどこかで会おうぞ。
この世で言う時を超えて...さらばじゃ!)
ヒババの言葉がナガテとカガリの耳元で響いた。
すると山頂にいた人影は海に落ち消えて行った。
「ヒババ~!....ヒババ!」
2人は泣きながら叫んだ。
すると傾きながら沈んでいた島は動きを止めた。
島に向かっていた海流や渦潮はみるみる内に力を失った。
船は海面に漂い始めた。
「今だ!」
龍男はエンジンを掛けた。
初めは上手く掛からなかったがガタつきながら息を吹き返した。
船首を北海島のヒイラ漁港目指して波を切り飛沫を上げた。
「あっ!島が沈む!」
嶋崎が叫んだ。
ナガテとカガリは身体が脱力して見ていられなかった。
「奇跡ですね!
ビックリしました!
よく助かりましたよね!
でもまさか……
あの島に誰か取り残されたんですか?
ヒババ?って叫んでましたよね。
他に誰かいましたっけ?
誰も何も見えませんでしたけど
一体何があったんでしょう?」
嶋崎は興奮して早口で喋った。
嶋崎はヒババの記憶がなくなっているようだった。
「奇跡を起こしてくれたのがヒババ様だよ。
あの島の、そしてボク達の守り神さ....」
ナガテは伏目がちに嶋崎に言った。
「感謝しなくちゃですね。」
嶋崎は神妙な顔で言った。
気付くとドンヨリとした空にはヘリが3機舞っていて、
その1機はボク達の漁船に追随していた。
北海島からも数隻の船がこっちに船首を向けて来たが、
すれ違いざまにUターンして並走航行を始めた。
ナガテは芸能人の勘が働き漁港に報道が待ち構えている気がした。
猟師のような格好をしたカガリは目立ちすぎると思い
帽子、サングラス、シャツ、上着に着替えさせた。
しかしわらじのような履物はどうにもならなかった。
そのうち龍男が見かねてゴム長靴を履かせた。
カガリはどう見ても逆に目立った。
漁港に近づき防波堤にある常夜灯の先に鏡川医師が手を振っているのが見えた。
「先生~!」
ナガテ達は手を振りながら叫んだ。
「カガリはサングラスをしたままナガテを凝視した。」
桟橋に着くと龍男さんが係留してナガテ達は荷物を下ろし下船した。
鏡川医師が走って来た。
「もう朝から大変な事になってるのよ!
メディアが押し掛けて来てるの。
病院もナガテさんの事で大変だけど、あの島が沈んでるって事でも...
しかもトウヤナガテが沈んでる島にいるって言う噂が流れて...
病院関係者でナガテさんの事を知ってるのは沢山いるけど、
今回の事はわたしと院長位しか知らないはずだから...
でも良かった~無事で!
まさか島が沈没するなんて夢にも思わなかったわ。」
鏡川は息もつかず一気に話した。
「病院に戻るより一旦バンガローで様子を見よう。」
ナガテがそう言うと、
「それにもう1つ異変が起こっているの。
ここじゃないけど東都湾で...」
鏡川が言いかけると、
「あなた誰なの?
私のナガテに気安く話しかけないでくれる!」
サングラスを鼻まで下ろしたカガリが割って入った。
「あ~っ、あなたが噂のカガリちゃんね。
可愛らしいわね。
素敵ねそのサングラス...
お似合いだわね。
チョットいい娘にしててね。」
嶋崎は例のごとく2人の間に稲妻が走り稲光が見えた。
「ちょっ...ちょっと待って下さいお2人共。
報道が来てるようですので早く逃げましょう。」
嶋崎は指さしながら2人を急かした。
ナガテは頭を抱えて我先に走り出した。
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