浮気について―オレンジタルトをデザートに―

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 拓人と私は、基本一緒のベッドで寝ている。けれど、お互いに一人で寝たいときもあるだろうと、私の部屋兼仕事場、拓人の趣味部屋にも、それぞれシングルベッドが置いてある。  今日拓人は、その趣味部屋で寝ているようだった。私が浮気しているか、なんて聞いたせいで気まずかったのかもしれない。けれど、していないならしていないと、キッパリ、ハッキリと否定すればいいだけだ。  今まで私は、友達の旦那の浮気疑い話を聞いたとしても、自分とは無関係だと、気にすることもなかったのだ。だというのに、こんな風な態度をとられたことで、私の中の疑いは、ぷくぷくと膨らみ始めたのだった。  拓人は優しい。誠実を絵に描いたようなと言えば大げさだが、そのぐらいできた旦那だと思っている。まだ子どもには恵まれていないけれど、休日は一緒に出けかたり、食事を作ってくれることもある。洗濯も掃除も手伝ってくれるし、笑いのツボも一緒。価値観、考え方も近いから、今まで、けんかというのも一度もなかった。すれ違いの生活だからこそ、二人で一緒にいられるときは常に話をしたりして、コミュニケーションも足りていた。  付き合った当初からセックスの頻度は少なくて、今もそれに変わりはない。月に一度あるかないかで多くもないが、減ってもいないので「レス」には、なっていなかった。   そんな拓人だが、考えてみれば浮気のチャンスがいくらでもあるということに気が付いた。 大手の広告会社に勤めている拓人は帰って来ないことがよくあるのだ。土日出勤もあり、帰りが遅いことも多々ある。そして繁忙期となれば終電に間に合うわけもなく、会社に泊まり込み。そして、その繁忙期は、その期って何だっていうくらい、しょっちゅうある。  だから拓人は会社のすぐ近くに、拓人の名義で部屋を一室、借りている。仮眠をとるため、着替えに行くだけのための部屋。その出費については、もったいないとも思うけれど、それで拓人のストレスを減らせるものなら安い物。そう思って放っておいた。  けれど、その部屋には家具も備え付けてあるし、生活用品、替えの服も置いてある。そんな浮気にうってつけの部屋があるというのに、なぜ今まで、その可能性を考えなかったのかと一人ベッドに横になり、私は初めて「浮気」について、真面目に考えることになった。
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