浮気について―オレンジタルトをデザートに―

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 「浮気」について本気で考えていた昨夜は、ほろりと涙が出てきてしまい、いつの間にか寝落ちしてしまった。そして泣きながら眠ると、寝すぎてしまうのはなぜだろうか。泣くのは体力を消耗するからか、目が疲れを訴えるのか。   とにかく、寝坊してしまった私は、朝食を作るのが間に合わなかったのだ。かけずに寝てしまった私が悪いのに、スマートフォンのアラームを恨みながら、ばっと起き上がる。急くようにしてベッドを出て、ドタバタと走りながらリビングに向かう。  「ごめんっ、寝坊したっっ!」   と叫びながら、私はバンっと、扉を開けた。  すると、ほわほわとリビングにおいしそうな匂いが漂っていた。 「そんな焦らなくてもいいよ。俺も今日は午後から出勤だし、(ふみ)ちゃんももう食べる? 焼こうか? パン。」   家でフリーデザイナーまがいの仕事をしている私の方が、いくらか時間に余裕がある。結婚してから、平日の朝食作りだけは欠かすことがなかった私の、初めての失敗。   チーンと鳴ったトースタに、パンが焼け終わったことを知らされた。リビングのテーブルの上には、二人分のレタスとトマトのサラダが添えられた目玉焼き。それとバターと、私の大好物のマーマレードの瓶が出されていて、それに私の胸がチリリと痛んだ。 「目、腫れてるよ。ごはん食べたら元気でるから、ほら、座って。」   と、私の分の食パンをトースタ―にセットして、拓人は笑った。 「ヨーグルトも食べないと、健康のためにね。」   そう言って、私はヨーグルトを取りに冷蔵庫へ向かった。  本当にいい旦那様。   朝食を作り損ねても、私の方が遅く起きても嫌みの一つも口から出ない。それどころか、私の分まで一緒に朝食を用意して、後片付けまで買って出てくれた。   極めつけに、 「今度の休み、ちょっと良いところ食事に行こうか。お洒落(しゃれ)してさ。」   なんて、慰めてくれる始末である。  友人の話を聞いていると、共働きでも、家事は女の仕事と思い込んでいる時代遅れの考えの旦那だって、まだ残っているというのに、だ。   なのに、今の私には、その優しさすら疑わしい。
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