浮気について―オレンジタルトをデザートに―

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 拓人から、夕食は会社の人と食べてくるから要らないとの連絡が入った。 拓人の分も作らなきゃって思うと、献立や栄養バランスにも気を遣うけれど、今日は一人だ。   一人分の食事を作るとなると、途端に面倒くさいことに思えてくることは心から不思議に思う。それでも重い腰をあげ、冷凍庫に余っていた鶏肉と冷蔵庫の卵、それとたまねぎを使って親子丼を作った。便利な三倍濃縮のつゆに水、砂糖を入れてくつくつと煮込む。汁物は、サラダは……と考えたけれど、やる気は起きずに、親子丼のみの夕食だ。   普段、一人で食事をとる時は気にならなかったのに、こういう気分で一人で食べると、味気なさが、ひとしおに感じられた。   そして私は親子丼を、全部食べることができなくて、半分ぐらい残してしまった。   夕食後、お風呂から上がった私は、やりきれないような気持ちになっていた。洗面所にある鏡に映った自分の裸。特に変哲もない自分の体を見て、がく然としたのだ。    元からない身長と胸のボリューム。ちょっと前までは引き締まっていたはずの下腹には、ぽにょんと肉がつき始めていた。かろうじて残っている腰のくびれは輪郭がぼやけていて、自分も、確かに年を重ねているのだということを思い出した。   満たされていた時は、気にも留めていなかったから、私はそのことを、さっき、その瞬間まで忘れていた。   人はそんなだから、幸せ太りなんて言葉が生まれるのだと、ぼんやりと思った。   呆然(ぼうぜん)としてリビングに戻り、テレビをつける。  すると、自分よりも若くて、かわいらしい女の子が頑張って仕事をしている姿が映し出されている。 「あ、拓人がかわいいって言ってた子だ。」   と私はつぶやいた。  私には、人数が多すぎて見分けのつかないアイドルグループ。その一人のメンバーが、アップで映し出されている。私はその子の名前を思い出そうとしたけれど、浮かばなかった。  これだとおばさんまっしぐら。  それどころか、世の中から置いて行かれてしまうんじゃないか、そんなことが頭を過った。
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