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一体どうして大神はここまでして満月の日に休むことを拘るのだろうか。
平凡な俺には皆目検討が付かない。
「では、教授だけ違うコテージのような独立した宿泊先を探しますのでそれでどうでしょうか。メンバーにはいつもの通り近付かないよう俺から伝えておきますから」
人嫌いである大神との出張は、満月関係なしに宿泊先一つを決めるだけでも毎回揉める。経費の関係から良い条件のところに泊まれるはずもなく、大神以外は雑魚寝ができる鄙びた旅館であったりカプセルホテルだったり環境としてはお世辞にも良いとは言えないところへ宿泊するのだ。
「新高君、これはいつもの出張とは違うんだよ。何たって、“満月”が来るんだからね。私は満月は仕事を一切しないともうずっと前から決めているんだ。だから悪いけど、日程を組み直してくれ」
そう言って俺へと背を向けてしまった大神に、俺は思わず約束違反だと分かってはいたがつい勢いで禁断の質問をしてしまう。
「教授、お言葉ですが我々社会人なんですから自分の思う通りに物事がいかないことくらい日々往々としてあるんです。それくらい分かって下さいよ。この日程だってたいぶ前から調整して、やっとこのスケジュールで落ち着いたんですよ?だいたいどうしてそこまで“満月”の日に休むことを拘るんですか?!」
言い切った後、大神の逞しい背中が酷く怒っていることに気が付いてしまう。
し、しまった……。
つい約束を破ってしまっ……。
「――新高君、残念だよ。私は最初の段階で言ったはずだ。満月には仕事を必ず休むこと、そしてもう一つ。私自身のことを知ろうとしてはいけないということ」
肩を震わせながらゆっくりとこちらへ振り向く大神に、無意識の内に俺は恐怖で全身を硬直させてしまう。
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