満月

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「す、すみません!出過ぎたことを……」 咄嗟に謝罪の言葉を述べるも、既に時は遅し。大神は獲物を射抜くような鋭い眼光で、こちらを睨み付けていた。 す、すごい迫力……。 怖い。 でも、不思議と目が離せない。 大神の背後には、あと数日で満ちるであろう環に近い月が煌々と姿を現していた。 じりじりと距離を詰めてきた大神はそのままお互いの鼻がぶつかり合う距離まで迫ると、形の良い唇をニッと上げた。 「――特別に今回はその出張、引き受けよう。今回だけだ」 先程までの否定的な言葉を覆した男に、俺は一瞬訝しく感じてしまう。 次の瞬間、長い舌が俺の口腔内へと侵入する。 「……!!」 ……っ、何、でこんなことっ! 湿った舌の侵入に、俺は条件反射でその舌を無意識の内に軽く噛んでしまう。 「――折角、人が下手に出たと言うのにその態度。完全に、私を怒らせたようだね。こうなったら、満月の()……私の言う通りにしなかったことを後悔させるとしよう。いいね?」 不敵な笑みを浮かべながら、大神は自身の唇に付いていた血を手の甲で拭うと後ろを振り向くこと無く教授室を後にしたのであった。
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