冬空

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夕食を食べ終わり、芙美が入れたお茶を飲んでいる。 「一人暮らしとは驚いたな、こんなに広いのに寂しくないの?」速雄が尋ねる。 頷く怜。 「ねえ、怜ちゃんって、読んでもいい?」 目が左右に泳がせながら考えるもすぐに頷く怜。 「よかった、これからよろしく。それと、吃音症だからって遠慮しなくていいのよ。怜ちゃんが声を出したいときは遠慮しないで話していいのよ」 頷く怜。 「よし、それじゃあ、お風呂に入りましょう。それから明日はお掃除一緒にしましょうね」 芙美の距離の近さにビクリと体が震えるが、鈴見の距離の詰め方は母親になのかと少し思う怜。 速雄と鈴見は気まずそうにお茶をすする。 706号室のお風呂に入る怜。毛先が傷んだ髪は一度目のシャンプーでは泡立ちが悪く、二度目のシャンプーで泡が立つようになった。シャワーでシャンプーを洗い流す。リンスを神になじませて、体についた汚れを洗い、リンスと一緒にシャワーで洗い流してから、湯船につかる。 「ここぉれだけ洗えば、汚れないかな」 お風呂から出ると、新品のタオルが用意されていた。新品のタオルは少し硬い気もしたがそれはそれで気持ちがよい気がしてしばらく顔を埋めてしまう怜。 「ふー」長い息を吐きだしてから、リビングに戻ると芙美がニコリと笑い、手招きをする。 「髪の毛といてもいい?」芙美の問いに頷く怜。 出会ったばかりのはずなのに、知らないものが見たら親子だと勘違いしてしまうぐらい二人の距離が急速に近づいていく。 「怜ちゃん、今日はこの家に泊まるといいは、部屋は鈴見の部屋を今日は使って。鈴見にはリビングで寝てもらうから」 迷いながら「いぃいいんですか」細くすぐに途切れそうな声で返事をする。 「うん。いいのよ」怜の声が聴けて嬉しそうに笑う芙美。 鈴見の部屋は片付けが進んでいた。本棚に押し込まれた参考書や星座図鑑。棚に積まれたキャンプ道具らしき者達。今まで、男の子の部屋に入ることがなかった怜にはすべてが初めての光景に見えた。窓から薄く野外灯の光が部屋に入り込む。ベッドに横になり天井を見つめる。 「あ」 白い天井ばかりを眺めていた怜は驚いた。天井いっぱいに星空が貼られていたのだ、手を伸ばせば届いてしまいそうな距離に星がある。今にも空から落ちてきそうなぐらいの無数の星が目の前にあるのだ。怜は無意識に手を伸ばしていた。
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