冬空

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温かいながらも少し冷たい光が窓から差し込み怜の顔を照らす。 「ううむ」目をこすりなら、ベッドから起き上がり部屋を出る怜。 「怜ちゃん、おはよう」芙美の明るい声にびくりと背を伸ばし、 「おおぉはよう、ごござざぁいます」 リビングのテーブルには朝食の準備が整っていて、速雄と鈴見は先に食べている。怜の方を軽く見て口ごもりながら、「おはよう」と二人、同時に話す。 「すぐに怜ちゃんの分も準備するから座って」芙美に言われるまま、席に座る怜。 「口に合うかわからないけど、どうぞ」 「はははぁい」 怜の前にはサバの味噌煮、納豆、白米、具が豆腐の味噌汁が並んでいる。 「いただきます」朝食に箸をつける怜。いついらいのまともな食事だろうか。長い間、出来合いの物ばかり食べていたためか味が薄い気がした。けれども、口の中に優しい味噌の香りが広がり、鼻からぬけていく。味噌汁の中を泳ぐ豆腐が口の中に入ると舌や頬が熱くなる。 今までの食事はどこか冷たく、小さな棘が混じったような刺激がしていて、それが当然の味だと思っていた。 昨日までは初対面だったはずなのに、自然と朝食を囲んでいる。これが温かい家族なのだと怜は思った。 朝食を食べ終わった鈴見は足元に置いていたリュックを片手で持ち上げると、 「今日からバイトだから、帰りは遅くなる」そう言い、家を出る。 「せっかちだな、時間だから行ってくる」そう言って速雄も横に置いたカバンを手に取り出ていく。 朝食を食べ終えた怜は「ごごごぉちそうささまです」と手を合わせる。 芙美が「洗い物はするから、テーブルの食器こっちに持ってきて」と怜に微笑む。 速雄や鈴見の食器も片付け終わると、手をタオルで拭きながら、 「それじゃあ、片付けしましょうか」そう言って、怜と一緒に穴の開いたベランダから隣の705号室に入ろうとするが、芙美がうまく通れず、 「中途半端に壊れていると通りにくいわね」 「・・・」 「えい」声を上げ、邪魔な個所をたたき割り始める芙美。意外な行動にただ見ているだけの怜。 「一度やってみたかったのよね、怜ちゃんもやってみない?」 迷いながらも芙美と一緒に叩き始める怜。 ポコ、意外な感触と簡単に壊すことができたことで、楽しくなり、二人で綺麗に壊してしまった。 「それじゃあ、まずはゴミを分別からね」 「はははぁい」 芙美は手際よくゴミを分別していく。怜も真似をしようとはするが、芙美のように手際よくはでず、燃えるごみを袋に詰めていく。 次に芙美は油が固まって黄ばんだ皿と乾燥してパリパリになったゴミであふれるキッチンを片付け始める。怜は芙美に言われ、玄関の掃除をしている。怜なりに必死に掃除をして戻ると、油がぎっちりこびりついた皿が綺麗な白色に戻り、ヌメヌメしていたキッチンはツルツルと音がするほど光って見えた。 芙美の掃除力に目を大きくして驚く怜。 「あ、玄関終わった?」 「ははい」 「それじゃあ、トイレ掃除お願いできる?」 頷く怜。 「それと、私が怜ちゃんのお部屋、掃除してもいいかしら?」 「だだだぃじじぃようぶです。おおおねがい、ししします」 「よかった、綺麗にするから期待していてね」 怜の部屋に入る芙美、部屋の間取り的には鈴見の部屋の隣にあり、間取りも同じだ。 本棚の下には雪崩の後のように参考書や本が落ちている。それを一つ一つ戻していく芙美。 「あら」芙美の手が止まる。そこには、簡単衣装の作り方。小道具集などの本も落ちていた。 本棚を片付けた芙美はさらに部屋を掃除する。棚の足元を掃除していると、奥に何か四角いものが落ちていたので、手を伸ばし、拾い上げてみると写真立だった。そこには制服姿の怜と友達3人で写る姿があった。写真立を怜の机に立てかけ、床に散乱した洋服を摘み取るように抱えていく。その中には写真の制服もあり、しわくちゃになっていた。摘み取った服たちは洗濯機に入れ、制服は706室のリビングに置く芙美。 トイレ掃除を終えて怜が戻ってくると、芙美は嬉しそうに、 「少し休憩しない」といい「怜ちゃんのお部屋掃除しておいたから少し休んでて、私は買い物に行ってくるからね」 「はい」 706号室に戻り、トートバックと怜の制服を持ち、買い物に出かける芙美。 芙美が外に出た後、怜は恐る恐る自分の部屋の扉を開ける。先ほども出荒れ放題で足の踏み場のなかった部屋は、寝転んでも埃が立ち昇らないほど綺麗に磨かれている。散乱した本も綺麗に高さが揃えられ、棚も整理されている。別の部屋に来てしまったような気がしながらも、ベッドに座り部屋を眺めると机の上に立てかけられた写真を見て、すぐに倒し、ベッドに横になった。 「はぁ」ため息を漏らす怜。
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