第1章 食いしん坊の神様 ①

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 日が沈んでから家に帰り着いても、当然外灯は着いておらず、家の前は真っ暗だ。  それでも、月明かりにぼんやりと浮かびあがる古ぼけた屋敷は、いつも疲れた私を包み込むように迎えてくれた。  ただ何しろあちこち古いので、手入れは大変だが、この屋敷の(たたず)まいは風情があると思えば、そう悪いものでもない。住み心地については(おおむ)ね問題は無いのだ。 (ある一点を除けば……)  鍵を押し付けるようにして回し、引き戸を持ち上げるようにして開ける。  だいぶガタがきているのか、この扉はそうしないと開かない。玄関の扉ひとつ取ってもそんな調子の古い家だった。  真っ暗な玄関に入り、くたびれた鞄を床に置く。  すると、廊下の奥に広がる闇の中から、声が響いてきた。
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