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「おーい、タヌキくん。僕だよ、ウサギだよ」
呼んでも返事がないので、ウサギがタヌキの住処である穴蔵を覗いてみると、まぁ大変、タヌキは机にうつ伏せて事切れておりました。
ウサギは、冷たくなっているタヌキのそばに、ウサギ宛ての書きかけの手紙があるのを見つけました。
『ウサギくん。もう何度目の手紙になるだろう。返事が貰えないということは、君はまだ僕を許していないんだろうね。僕はどうやらそろそろ寿命のようだ。死ぬ前に、今までの悪行を赦して欲しいだなんて虫が良すぎるかな。でもこの頃毎晩の様に、背中の火傷の跡が疼いてね。ちゃんともう一度、迷惑を掛けたことを謝りたいと思っていたんだ。勝手なお願いだけれど、もし君に橋渡しをしてもらえたらと……』
そこまで読むと、タヌキの手紙はサラサラと音を立てて、一枚の葉っぱに姿を変えてしまいました。
「わかったよ。タヌキくん」
ウサギは死んだタヌキを引き摺って、タヌキが悪さをした、おじいさんの家へと運びました。
その年は数百年ぶりの凶作で、冬場に食べるものが無くなってしまったおじいさんは、ウサギが届けてくれたタヌキを食べて、その冬を生き延びました。
それどころか獣肉を食べて精力をつけたおじいさんは、若いお嫁さんを貰い、子供を授かり、前の奥さんを亡くして独りぼっちだった暮らしから、賑やかな老後を迎えることができたのです。
「ようやく人の役に立てたじゃないか、タヌキくん」
長い耳に届いた、おじいさんの家から聞こえる幸せそうな笑い声に、ウサギは満足そうに微笑みましたとさ。
めでたしめでたし。
【おしまい】
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