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頼まれごとをさっさと済ませるため、五キロほど離れた隣町まで自転車を転がしていたところ――。
「おーい、アキぃ!」
ばったりと幼馴染みに出くわしてしまった。
「よお、ユズ。学校帰りか」
減速して彼女の横につける。ソフトボール部に所属するユズは、すこぶる健康そうな顔を笑顔に変えて頷いた。
「アキは? これからどっかいくん?」
「隣町のタエばあさんとこ」
「……はあ、またバイトかいな」
あんたも好きじゃねぇ、と呆れ顔をしながらも、ユズはそのまま自転車の荷台に股がってきた。
「よぉし、じゃあしゅっぱーつ」
悪びれもなく指揮を執り始めた。どうやら、僕のほうに選択肢はないらしい。しぶしぶだが、しかしそんなに嫌でもなく、僕は再びペダル漕ぎを再開した。
ユズの家には女子中学生らしく門限があるので、日が暮れるまでには戻ってこなければならない。少しだけ両足に力を込める。
夕暮れののどかな田園風景の中を二人で進んでいく――。
そんな時だ。あ、そういえば、と彼女が口を開いた。
「タツおじさん、まぁた試験飛行したんだって」
何のことかと思えば、そんな話題かとガッカリした。どうせなら、同級生の色恋沙汰とか、そういうのがよかった。
四十過ぎの飛行機好き偏屈機械親父は、髭面の顔を思い出しただけで暑苦しい。けれど今の僕にとっては、その偏屈親父は無下にできない存在だ――。
「相変わらずじゃなぁ。調子に乗ってると、またヤツらに追いかけ回されるんじゃね?」
「あはは。今度は無茶せんって」
本人がそういうならそうなのだろう。もっとも、彼の野心は今に始まった訳ではないため、今さらやめたりはしないだろう。そのおかげで、今回僕は千載一遇のチャンスを得たのだ――。
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