手紙は海を越えて

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 物思いに耽っているうちに、隣町まで到達した。頼まれた手紙を、おばあちゃんに手渡して、仕事は終わりだ。  こんな時代だから、遠く離れた人間とのやり取りは思いのほか難しい。僕のような身体の元気な者が、手紙を届けることで少しでも助けになるなら、と思って始めたのが、この商売だった。  その昔には、電子的に手紙を遅れるシステムがあったらしい。だが、現在は人工知能による支配によって、そういった技術は消滅してしまった。聞く話によると、ものの数分で地球の裏側にでもメッセージが遅れたらしいが、にわかには信じられない。  そういった体験談を聞くにも、当時を知る世代は高齢化が進んでいて、なかなか経験や知識や記憶が伝承されない。社会問題としても取り上げられるくらいだ。豊かだった時代を知る人間は、ひとりまたひとりといなくなっている――。
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