1.ネカマ、はじめました

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 それで目をつけたのが、ツイッターの中で流行っていた「質問箱」というツールだったんだけど、これについては実際に見てもらった方が早い。  今からさっきの「お前、ネカマだろ」という質問に返信をすることにする。  僕のモットーは即時反応。  多少雑でもいいから、とにかく素早く反応する。  僕の性格がそうさせるっていうのもあるけど、ツイッターの中で即時性は案外キーワードだと思ったんだ。  たぶんその思惑は当たった。  あの日ゼロからスタートした僕のフォロワーは、この一週間ですでに百人に近づきつつある。  まだ百人には届かないけど、数日以内に到達する。  確実に。  僕は、ほくそ笑みながらキーボードに指先を走らせた。  いまの僕は僕であって僕じゃない。  僕はサファイア姫になる。 「ご質問ありがとうございます!  って。それは質問なんですか? 質問ではないですよね。  どちらかというと、名誉毀損ですよね、もはや……!  なんなんですか、その断定っぷりは。言いがかりですよ、言いがかり!  証拠なんかないんでしょう、どうせ。  あ。私に女性である証拠を出せとか言われても、その手にはのりませんからね?  第一、そうやって私のちょっとエッチな画像とかアップさせてやろうって、魂胆見え透いてますよ、あなた。  ほんと、失礼しちゃいますね。はは、そんなんだから、いつまで経っても童貞なんですよ、おじさん! っと。  目には目を、名誉毀損には名誉毀損を。  これで全部完璧に、解決ですね☆  さすが私、冴えてるゥ!」  まあこんなもんでいいだろう。  左手でマグカップを持ち上げて、送信ボタンを軽く押す。  タン、と乾いたいい音がして僕の手からまた一通、サファイア姫の回答が滑り落ちて流れ出す。  そのまま放流する。  ツイッターという海の中へ。  こんないい加減で失礼な内容でいいのか、と思わないでもないが、問題はない。  サファイア姫はこういう無礼な人間だ。  って、僕が作ったんだけど。  あたたかいコーヒーが食道から胃へと浸潤して、僕はカップのふちに唇を添えたままニヤリと笑う。  ほら見ろ。  すでに、僕の投稿にいいねがつきはじめている。  フォロワー百人は、そんなにたいした数字ではない。だが反応率は重要だ。  この一週間でフォロワーになってくれただけあって、彼らの僕に対する興味はまだかなり強いと言える。  いや。違うか。  僕じゃなくて、サファイア姫だ。  彼らが興味を持っているのは、僕が作ったこのサファイア姫という人間なのだ。  僕はそれを、忘れていない。
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