興亡分岐点・後編~王国ロブリーズ~

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帝国民の朝は、昨日作った白湯を飲み、SNSを確認する所から始まる。 某民は白湯を飲みながら、真っ先に或るSNSグループを確認した。 同級生のエスライングループだ。彼(と当時の先生)がとり纏めるグループは、今日もメンバーの吹き出しが並んでいる。 「そっか、今日だっけな?」 その中で1つ、気になる吹き出しを見つけた。 《ちょっと王国に留学してくる》 其の意味する所は、当たり前の様に重大だった。 興亡分岐点後編 御色合わせ 〈Ruining earth;Mode Latter.Set mine by your Coloring.〉 《来年には必ず帰国するつもりだけど、いつまでかは不明》 その青年の名はリノクのアサヒ〈Asahi the Rynok〉。 同級生達が起きてSNSを見ているだろう頃、山吹色のボブが眩しい彼は索道に乗って、極寒たる帝国メガロポリスと沙漠の王国ロブリーズ…両国の境目に居た。 ちなみに、石灰峠は索道で登り、頂上で一服してから麓まで下るそうだ。《♪ ヘーイヘイヘイヘーイヘイ! ♪》 「しー。今、ロープウェイだよ。」 帝国最南端のコンビニで買ったおにぎりを組み立てながら、彼は土耳古色の小型パソコン兼通信機を開き、電源を入れた。 級友が発明した掌サイズの開閉式パソコンは、今日も無事動いていた。早速エスラインの電話を拾ってみると、噂の開発者が映っていた。 「てゆーかまだ着るんだその服…」 《なんか入れっぱにすると知らねー内に穴空いてそーだから久々に出してきたけどよ、やっぱ似合わねーよな?》 画面には、水浅葱色の着物を着た少年が映っていた。 ファスタラヴィアのコージ〈Koji the Fastalaviea〉。 帝国では現在最年少の天才、学校内では悪党番長で通る友人だった。 今は、思いつきで地元の川の流れに乗ってみたらその向こうにあった…という誰も知らない国から帰ってきて、発明三昧らしい。帝国至上主義ではあるが他国の知見も柔軟に取り入れ、今日も新たな発明を思いついている。 「うん、お世辞も言えないレベルで似合わない。」 《なんなら服くれ?》 件の着物はその国の基本的な服らしいのだが、顔つきが悪いのか髪型の所為なのか、とにかくコージには似合わなかった。 「じゃあ王国の服送るよ。サイズなに?」 《基準違うんじゃね?とりあえずLで。》 「了解。」 《ところでよ、カメラトンじまったか?》 「あ、忘れてた。」 この丸みを帯びた小さな長…直方体には途方も無い機能が沢山ついているらしいのだが、まだまだ空色の瞳の中には記憶されていない。覚えているのは、映像と共に音声を送る電話機能が付いている事と、色んな電化製品を繋いでもソレを動かせる事だけだ。 青年は画面を指で突き、ビデオ機能を点けた。 2つの索道は少々遅延したが、無事、王国最初の街に辿り着いた。 「転送装置って、何処まで届くの?コートをどうにかしたいんだけど…」 《そっからならファスタラヴィア区までは届くぜ?  オレん家(ち)に送れよ、後はナントカさせる。》 「了解、御言葉に甘えまーす!」 アサヒは気温差対策として服を2パターン持って来ていたが、思っていたよりも索道の暖房が効いていた。正直、コートが完全にお荷物だ。 アサヒは転送装置を使い、コートとその他不要そうな物を転送させた。 「コレ誰発明だっけ?」 《帝国暦100年のクワモスのルネさんが最初だぜ。  昔はデカイ上にリサイクルが激ムズだったんで、オレが中身を改良して、  回路と外装をセンパイが改良したぜ。それでサイズダウンに充電不要、  使用回数とオシャレ度がアップしたのが今。》 「はえぇー、ま、マジか…」 (帝国謹製)転送装置とは、現在では某立方体パズルサイズの小型装置である。白い外装と電子回路的な模様、そしてネオンブルーの光が垣間見える内部は実益と装飾を両立させた一品であった。3回しか使えない、転送範囲が帝国領土内限定、ごみ分別がまだ難しい…といったデメリットは有るが、大体SF界で見かける大型転送装置がほぼ存在しない帝国において実に画期的な発明だった。 「転送先は住所入力で良いかな。」 物資転送後、アサヒは駅付随の更衣室で着替え、そのまま駅構内で王国由来の暑さ――これでまだ帝国に最も近い場所だという事実が信じられない――に身体を慣らした。 少し歩いてみただけで、汗がジワリと出てきた気がする。 この時点でビックリだ。 「あのさコージ、マイクってどっから出すの?」 《画面あんだろ。正面から見て右にあるぜ。》 リノクのアサヒはコンタムシリコンの該当部から金属製の弧を描く細い物を取り出し、端を利き手と反対側の耳に引っかけながら頭を通って、利き手側の耳にくるりと回した。利き手と反対の耳には、小さい直方体が付いている。 《コレ実は四十八面体だぜ。》 「そうなんだ?」 《おう、ムシキたんの限界に挑戦してもらった。》 「ムシキさんお疲れ…」 これにマイクとカメラが内蔵されているとのことなので、コンタムシリコン自体はもう何処かに仕舞っても大丈夫だろう。アサヒはコンタムシリコン本体をズボンのポケットに入れた。 《おう、帝国の為にも未加工でいいしバンバン送れ?》 「…もう国境越えたし、帝国節やめようマジでやめよう…」 ロープウェイから降りたアサヒは駅でガイドブックを買い、初めての街を回ることにした。ちなみに両替は、帝国でとっくに済ませている。 「此処は…山岳都市スパイク。名物はカマツカとトマトの煮込みごはん…」《辛そうだな。》 「うん、たぶん…」 山岳都市スパイクは帝国の極寒エキス半分、王国の沙漠エキス半分といった具合の街だった。道行く人々の肌は帝国民よりも黄色あるいは茶色く、服はひらひらしていて薄そうだ。地になる色も、ベージュや黄土色といった淡くて柔らかい色が多い。そして皆、長袖だった。 アサヒは暑いと思ったが、王国ではまだ涼しい方なのかもしれない。 《たでーまー。》 「おかえりデーヒー。」 アサヒとコージのエスライン電話に、割り込みが入った。 ファスタラヴィアのデ…ヒデヨリ〈Hideyoli the Fastalaviea〉だ。 《アサヒまでデーヒーって・・・》 オリーブ色のチョンマゲが曲がっているのは、本日休業日だからだろうか。若干内向き気味の髪が残っているのもあり、垢抜けない事この上ない。 《ミソコージやっぱ殴る!!》 《あでっ?!もう殴ってんじゃねーかコノヤロー!》 アサヒは午前中に着いたはずだが、街は既に炎天下だった。 空だけが何処までも青くて涼しそうで、アサヒは空を睨んだ。 「にしても暑いなー…」 心なしか住民も影伝いに移動している気がする。確かに、建物の壁は大凡平らな岩で出来ているから道の真ん中より冷えているかもしれない。 アサヒは彼らに習って様々な影を歩いたが、こちらは時差ボケならぬ気温ボケだった。なんせ地元は20℃あれば万々歳するほど寒く、方やこちらは、コンタムシリコンによると25℃だ。午前中でコレは… 「マジ有り得ない干からび…」
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