父親

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父親

強志、と名付けたのは父親だ。漢字で書ける様になった頃、ただダサいな、とツヨシは思った。父親は既にガンで亡くなっている。よって、あまり裕福な家庭ではなく、ツヨシはバイトをしていた。大学に関しても母親に勧められたが、家の事情くらいは分かっていた。 父親は美容師だった。ツヨシや妹の髪も切ってくれていた。いつからか憧れる様になって、真似事をしていた時もあった。 少し厳しく、だけど、それよりもとても優しい父親だった。何かにつまづいた時には笑っていればいいんだ、と言っていた。それを見せつける様に"末期ガン"だと宣告された時も父親は笑っていた。だけど、ツヨシにそのマネは出来なかった。父親譲りの茶色い髪を初めて真っ黒く染めたのは父親の葬儀の時。髪の様に変えられなかった茶色い目から涙がこぼれた。
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