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飲み会
8時13分。ツヨシはかねやんに着いた。やはりその気になれず、時間が遅れた。ガラッと戸を開けるなりユウタが言った。
「おせー。みんな集まってんのに」
なかば嫌々来たので、ツヨシはちょっとイラっとしたけど、ゴメンゴメンと言った。男はもう1人、女は3人いた。その時ツヨシは絶句した。ヨシカワ…。ヨシカワユキコがいる…。いや待て。そんなハズはない。その女はきちんとメイクをしているし、痩せている。だけどヨシカワに見える。
「ルイです」
ツヨシはルイに興味を持った。だけど他の男2人も同じ様だった。それはルイが女3人の中でとびぬけていたからだ。名前だけ教えあった。ツヨシ、ユウタ、マコト、ルイ、ユカ、マリ。みんながビールを注文する中、ルイは躊躇していた。酒が飲めないのかと思ったら、いも焼酎のロックを頼んだ。ツヨシが思わず笑うと、ルイがツヨシを見た。
「あ、ヘンでしょ?よく言われる」
と言ってエヘヘと笑った。
「いいんじゃない?」
そのツヨシの言葉にルイははにかんだ。その様子がまたヨシカワを思わせた。…殺気。男2人から睨まれているのを感じた。ルイとはあまり喋らない方がよさそうだ。
「なんか頼もーよ」
おそらくこの中で1番明るいであろうマリが言った。かねやんはツマミがおいしいので有名だった。実はツヨシの目的はこれだった。「何にする?」とききながらマリはメモに書いていった。今時のコとは思えない程、達筆だった。キレイに施されているネイル。でも爪は短めだった。"チーズオムレツ""タコから""豚キム""豆腐と新鮮野菜のサラダ""ワサ牛"ここまで書いて、マリは手を止めた。「とりあえずこれでー、あ、ビール…ルイは?」ルイは首を振った。酔わない様に気を付けている風だった。女達は知り合いの様だ。マコトのことは分からなかった。興味もなかった。ツヨシは酒が強く、飲んでも変わるタイプではなかった。ユウタの様にお持ち帰りするタイプでもない。ルイがムリだと悟ったのか、必死でユカを落とそうとしている。…女なら誰でもいいの…か。ユカはもう随分酔っていて目がトローンとしている。無邪気なだけかもしれないが、カンタンそうな女だな、とツヨシにはうつった。マリはマコトと喋っている。今ならいいかな、と思ってツヨシはきいた。
「ルイちゃんってコーヒーの温度こだわる方?」
「んー、そうですね。どっちかっていうと。…何の話ですか?」
そう言ってルイはツヨシに向かってニコッと笑った。
「かいさーん」
みんなかなり酔っていたのだ。だけどシラフみたいなツヨシとルイ。
「バイバイ、ヨシカワさん」
「バイバイ、タカハラだけど」
ルイは少し怒ったフリをしたけど笑った。ツヨシは自分で言ったのに驚いた。酔っているのか。…それよりもヨシカワのことが頭にあったのだろうか。そっとルイを見ると「怒ってないよ」と言われた。複雑な気分で帰ったが、すぐ寝た。
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