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チャイムの音に、いち早く反応した渚が、ゴムまりのように跳ねながら玄関を飛び出した。
「渚、勝手に出ちゃダメ!」
煮干しの袋をジョージに押し付け、真帆も後に続く。すでに玄関扉は開かれていた。
「イラッシャイマセ~」
母親の日頃の応対を真似ているつもりなのだろう。裸足で迎えた出た渚は、白く細くシワっぽい掌の持ち主を家屋へと誘導する。
姿を現したのは、真っ黒なロングワンピースを着た年配の女だった。
━━白い男とピンク色の女の次は……。
「黒い女かよ」
「何か、おっしゃった?」
「いえ。相変わらず、黒がよくお似合いで……」
「真帆さん、お久しぶりね。渚ちゃんも、お元気?」
「ドウゾ、オアガリクダサイー」
問いかけには答えず、渚は大根役者のような抑揚のないセリフ回しで、黒い女を招き入れた。
「まあ、お利口ね。誰に似たのかしらね?」
「私じゃないですか? 私の子ですから」
上がり框で仁王立ちのまま自分を見下ろす真帆の不遜な態度に、黒い女は上品ぶった佇まいを早々に崩した
「変わってないわね、このアバズレ……」
「ああ、『ABBA』はいい曲多いですよね。流行った頃は、私まだ生まれてませんでしたけど。でも『マネー・マネー・マネー』は歌えますよ」
「……あなたのそういうところ、嫌いじゃなくてよ、真帆さん」
「どうも~。お褒めいただき、光栄デース!」
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