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食卓椅子に着いたまま聞き耳を立てていたジョージと洋子は、無言で和室へ移動する。玄関へと通じる襖の隙間から二人顔を縦に並べると、真帆と黒い女とのやり取りを静観し始めた。
「渚を私に返す気になったかしら?」
「はぁ? 渚は私の子ですよ。誰に返すって言うんですか!?」
「あなたのところにいたんじゃ、渚の才能が潰されてしまうわ!」
「渚は見せ物じゃないって、何度言えば……」
━━カーン!
「出会え~!」
鍋とお玉でゴングのような物音を鳴らしながら、洋子が和室の襖から玄関廊下へと飛び出し現れた。
唐突に姿を見せたトリッキーなピンクスーツの金髪女に、黒い女は真帆に向けていた鋭い眼差しを一瞬緩める。
「あなた、どなた?」
「アタシは、真帆の実母だよ。渚にとっては、おばあちゃんだね。アンタこそ、どこのドイツだ? この真っ黒くろすけ!」
「まっ……!?」
服装こそ黒装束だが、白塗りに舞台役者のメイク並みに真っ赤なチークを施した黒い女は、さらに顔面を紅潮させながら声を震わせた。
「私も、渚のおばあちゃんですわ。息子が、渚の父親ですから!」
「つまり、この人は元姑……」
「ふーん。私は、洋子。アンタ、名前は?」
━━昭和のスケバンか!
真帆の説明を遮り、タイマンを張る前の不良よろしく、洋子は名乗りを上げる。対抗するように黒い女は顔を上げ、芝居がかった仕草で見得を切った。
「あ、私は、鴉世津子でございます!」
一瞬しん……と静まり返った後に、耐えきれず洋子は吹き出し笑いを始めた。
「随分、ほっぺたの赤いカラスだねぇ!」
黒い女と、ピンクの女。
義理の母(だった女)と、(十五年間音信不通だった)実母。
「何だか妙な展開になってきたな……」
渚を抱えつつ、二人の母の間に立つ形になった真帆は、今度こそハッキリと心の声を漏らした。
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