白い男とピンクの女と黒いカラス

8/18
前へ
/69ページ
次へ
 食卓椅子に着いたまま聞き耳を立てていたジョージと洋子は、無言で和室へ移動する。玄関へと通じる襖の隙間から二人顔を縦に並べると、真帆と黒い女とのやり取りを静観し始めた。 「渚を私に返す気になったかしら?」 「はぁ? 渚は私の子ですよ。誰に返すって言うんですか!?」 「あなたのところにいたんじゃ、渚の才能が潰されてしまうわ!」 「渚は見せ物じゃないって、何度言えば……」 ━━カーン! 「出会え~!」  鍋とお玉でゴングのような物音を鳴らしながら、洋子が和室の襖から玄関廊下へと飛び出し現れた。  唐突に姿を見せたトリッキーなピンクスーツの金髪女に、黒い女は真帆に向けていた鋭い眼差しを一瞬緩める。 「あなた、どなた?」 「アタシは、真帆の実母だよ。渚にとっては、おばあちゃんだね。アンタこそ、どこのドイツだ? この真っ黒くろすけ!」 「まっ……!?」  服装こそ黒装束だが、白塗りに舞台役者のメイク並みに真っ赤なチークを施した黒い女は、さらに顔面を紅潮させながら声を震わせた。 「私も、渚のおばあちゃんですわ。息子が、渚の父親ですから!」 「つまり、この人は元姑……」 「ふーん。私は、洋子。アンタ、名前は?」 ━━昭和のスケバンか!  真帆の説明を(さえぎ)り、タイマンを張る前の不良よろしく、洋子は名乗りを上げる。対抗するように黒い女は顔を上げ、芝居がかった仕草で見得を切った。 「あ、(ワタクシ)は、(からす)世津子(せつこ)でございます!」  一瞬しん……と静まり返った後に、耐えきれず洋子は吹き出し笑いを始めた。 「随分、ほっぺたの赤いカラスだねぇ!」  黒い女と、ピンクの女。  義理の母(だった女)と、(十五年間音信不通だった)実母。 「何だか妙な展開になってきたな……」  渚を抱えつつ、二人の母の間に立つ形になった真帆は、今度こそハッキリと心の声を漏らした。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加