白い男とピンクの女と黒いカラス

9/18
前へ
/69ページ
次へ
*  元姑・(からす)世津子は、地方では名の知れた進学塾の経営者だ。 「鴉一族は皆、優秀ですから」  その口癖の通り、親類縁者は医者もしくは学者として大成しており、三人の子供たちもトップレベルの大学を優秀な成績で卒業したということが自慢だった。  そんな世津子の唯一の跡取り息子が、学歴も教養もない、どこの馬の骨とも分からない田舎娘の真帆を嫁にしたいと連れて来たときには、相当な勢いでなじられた。 「今時、大学も出ていないなんて……」 「コンパニオン? パーティーの給仕係と出会って結婚だなんて……恥ずかしい馴れ初めだわ」 「鴉家の財産が目当てじゃないでしょうね? 『金持ちの旦那を貰ったら、働かなくてもよくなる』って、ABBAも歌ってるじゃないの」  世津子が何を言っているのか全く理解できなかったけれど、『money, money, money』という曲の訳詞を知ったとき、真帆は悔しさで全身の血が沸き立つ思いだった。  それでも、父が亡くなり、蒸発したきりの母は行方知らずのままの自分には、辛抱するしか道はないと耐えた。  けれど三年後、二人の間に授かった渚に障害があると分かるや、決定的な一言を放たれた。 「今すぐ子どもを連れて、離縁してちょうだい」  折しも、春の運動会シーズンだった。  集団行動のできない渚は練習にもついていけず、園児たちの輪から離れた場所で、加配の先生とともにグラウンドの隅で小石を集めたり、木の枝で落書きをしたりして過ごしていると聞いていた。 ━━このままでは、渚にとっても、いいことなんて一つもない。  いよいよ鴉家を出ようと、真帆は覚悟を決めた。  ところが、ある出来事をきっかけに、「別れろ」「出ていけ」を繰り返していた世津子の態度は、180度変わることになる。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加