白い男とピンクの女と黒いカラス

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 運動会の予行演習の日。  渚は、いつも通り周囲にまるで関心を示さず、半径1メートルの世界で遊んでいた。 ところが、本番さながらグラウンドに万国旗が掲げられるや、頭上を指して喋り始めたというのだ。 「あめりかー、いぎりすー、かなだー、ぶらじるー……」  最終的に、渚は五十以上の国旗の柄と国名をマッチングさせた。  挨拶どころか、自分の名前すら満足に言えなかった女の子の変わり様に周囲はざわめき、次第に沈黙した。  さらに驚いたことに、渚にアメリカ国旗を描かせると、星条旗の星とボーダーの数が五十と十三個、正確に揃っていた。 ……という逸話を、もちろん母親である真帆は、園長と担任の両先生から報告を受けていた。 「どうして、教えてくれなかったの?」 「それは……」 ━━渚のことになんて、興味なかったじゃないですか。  口先まで出かけた言葉を飲みこみ、真帆は経緯(いきさつ)を話した。  週一回のペースで通っている療育センターで手に取った『せかいのこっき』の絵本に興味を持ったこと。  目と耳が良いらしく、一度見た国旗の図柄と、真帆が読み上げた国名とを同時に記憶し、決して忘れないということ。  世津子が渚に興味を持ち、可愛がってくれるのならという思いで伝えた。しかし、返ってきたのは、耳を疑うセリフだった。 「そうなのぉ……さすが、鴉の血筋ね!」
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