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国旗の一件以来、世津子の関心のすべては渚に注がれた、と言っても過言ではないほどの熱の入れようだった。
『天才児を育てる』という触れ込みの幼児教室を申し込み、名のある絵画やピアノの講師を渚の個人教授として自宅へ招き入れた。
「将来の渚のために」という世津子の言い分は表向きの建前で、「非凡な孫娘を、鴉一族の人間として世に知らしめたい」という虚栄心と魂胆が透けて見えた。
いきなり自分に関心を寄せるようになった祖母に、渚も簡単に懐くはずがなく。怯えた表情を見せたかと思うと、些細なことで癇癪やパニックを起こすことも頻繁になり、少しずつできるまでに築き上げてきた生活動作さえ、ままならなくなってしまった。
「あの、渚には普通に自立した生活ができるように教育してもらえたら……特別な才能はいらないですから」
否定されることを承知で、平身低頭に真帆が懇願すると、世津子は冷たく言い放った。
「あなただけ、出ていきなさい。平凡な嫁は、いりません」
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