プロローグ

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 蜃気楼が見える季節は、いつなのだろう。  六月の終わり。  遠く彼方に揺らぐ水平線に、案山子(かかし)の立ち姿のような影が目に映る。 ━━(サギ)?  浜辺で小石を投げることに興じている娘の(なぎさ)に注意を向けながら、浅海真帆(あさみ まほ)は首を傾げた。  時折、ほっそりとした白鷺が、まるで白いスーツを纏ったホストのように憂い顔をして佇んでいることがある。けれど、いかに水鳥の仲間といえど、沖に立ったまま浮かぶ鷺がいるだろうか? ━━私、疲れてるのかな? 「ナギちゃん、帰ろう」  小石を掴みかけていた渚の手を取ると、イヤイヤをするように跳ね返された。 「ナギちゃん、帰ります。渚!」  聞く耳持たずといった風情で、渚は砂浜に埋もれた小石を延々と拾い上げる。自閉症の子どもは、気に入った行為を繰り返し行う習性があるのだ。  もう少し付き合う必要があることを悟った真帆は、軽いため息をついた。
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