白い男とピンクの女と黒いカラス

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「ところで、それは何の仮装?」  二人が語るまで切り出すまいと辛抱していたが、堪えきれず真帆から切り出した。 「仮装?」 「ピンクのスーツ」  林家パー子です、とボケてくれれば、まだ乾いた笑いでも沸いただろう。けれど洋子は、当然といわんばかりに真顔で答えた。 「ハネムーンの新妻は、ピンクのスーツと決まってるだろ?」 「入籍済み!? 婚約中じゃなくて!?」 「あ、まだ未入籍っす。婚前旅行っていうか……」  丈の合わない浴衣姿のジョージは、濡れたウェーブヘアをおだんごにまとめながら、母と娘の会話に割って入る。 ━━白スーツのホストから、体重不足で新弟子検査を不合格になった青年にメタモルフォーゼしやがって! ……と言いたかったけれど、話の腰を下りそうだったので、黙って聞いた。 「入籍前に、昔暮らした家を拝んでおきたいって、洋子さんが……」 「しおらしい理由のわりに、あなた方はヘアスタイルも奇抜ですよね」  ジョージのワカメ状ウェーブ・ロン毛は言わずもがな、なぜか洋子は金髪縦ロールのカツラを被っている。 「『アユ』みたいだろ?」 「は? 川魚の?」 「アユと言えば、浜崎だろ!?」  何時代の『アユ』を指しているのか甚だ意味不明だったし、シンディ・ローパーのモノマネに失敗した芸人にしか見えなかった。 ━━何が目的で、この二人は私の前に現れたのだろう?  ジョージの可笑しな動きが気に入ったのか、畳の上で受け身を取るようにひっくり返りながら「イデッ!」と繰り返す渚を(たしな)めながら、真帆は慎重に彼らを観察した。
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