白い男とピンクの女と黒いカラス

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「ジョージさんって、いくつですか?」  遠回しに聞くのも面倒になり、真帆は不躾を承知で尋ねる。そもそも、ろくに挨拶もなく初対面の他人の家に上がりこみ、ひと風呂浴びれるなんて。この男こそ不躾だし、頭のネジが一本緩んでいるとしか思えない。 「自分、二十八っす!」 「と、年下!?」  吃りながら絶叫する真帆に、呆れたような表情で洋子は口を挟んだ。 「何言ってんの、どう見てもアタシより年下じゃん」 「どう見ても、それは当たり前です。私より年下ってことに驚いてんの!」 「アンタ、いくつになったの?」 「三十よ!」  ふ~ん……と鼻を鳴らしながら、洋子はトドメの一言をつぶやいた。 「三十路で男の気配なし、かぁ」 「あなたを反面教師にしたんです!」  己の半分の年齢の男を婚約者として連れて来るとか。  お腹を痛めて産んだ娘の年を忘れてしまっているとか。  あなたが私を捨てて、十五年が経ったんだよとか。  還暦近いのにピンクのスーツ姿に、どうして金髪のカツラを被っているのとか。  何からどう突っ込んでよいのか(くすぶ)りながら、ぞんざいな態度で真帆は熱湯で入れた番茶を差し出した。 「ちょっと、夏日の気温だってのに、せめて冷たいお茶にしてよ」 「ぶっかけられなかっただけ、マシだと思ってください!」 「やだ、怖い。ジョージィ~……」 「大丈夫ですよ、洋子さん。俺がついてます」  なお文句を告げる洋子に、本格的にキレそうになったけれど。 ━━何が、「大丈夫ですよ」だぁ? ワカメ頭の小僧が!  渚の手前、口には出さなかったものの胸の内でジョージを罵倒し、真帆は少しスッキリした面持ちで、その場をしのいだ。  渚はというと、大人のゴタゴタなど意に介さず、畳の上で複雑な世界地図パズルを広げ、黙々と遊んでいた。
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