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「この子は、いくつなの?」
渚を指して、洋子が問う。
「六歳。来月で七歳に……」
真帆が答え切らないうちに、渚の隣にしゃがみこんだ洋子は、初めて会った孫娘に話しかけた。
「お母さん、優しい?」
「おかあさん、やさしい~」
「お母さん、好き?」
「おかあさん、すき~!」
体は渚と向き合ったまま、洋子はろくろ首おばけのように顔面だけをくるりと背後の真帆へと回転させる。
「あんた、いいお母さんしてんのね」
「オウム返しよ」
「オウム?」
意味が分からない、と言いたげな洋子は素っ気ない真帆の返事に顔を傾け、オーバーに瞬きをしてみせた。
「自閉症の特性。聞こえたセリフを真似てるだけ。コミュニケーションが取れないの」
「あら、さっき名前を尋ねたら答えたわよ。『ナギサです!』って」
「決まったパターンの受け答えならできるの。三歳から訓練してきたから。でも応用が利かないし、複雑な会話には対応できない……」
世界地図パズルに夢中な渚に向かい合うと、真帆は人差し指を立てて注意を促し、問いかけた。
「ナギちゃん、好きな食べ物は?」
「ばなな~」
目が合ったのは一瞬で、視線を斜め下に逸らしながら答えた渚は、再びパズルのピースを探し始める。
「これも童謡で覚えた模範解答を言ってるだけ。バナナは知ってるけど、一度口に入れて吐き出したきり食べたことないし。食感が苦手みたい」
「ふ~ん、そういうものなのね」
渚の障害をあっさり容認した洋子の態度に拍子抜けしたが、そもそも子どもに関心のない母親なのだ。孫娘のことも、鼻を鳴らしながら受け流す程度なのだろう。
そんな考えを巡らせていると、当の渚は完成した世界地図を前に立ち上がり、満足気に自ら拍手を繰り返している。パズルを作る行程を黙って見ていたジョージは、今日一番の歓声を上げた。
「すげ~、天才じゃん!」
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