息苦しいこの地上で

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──空を見上げる。雲ひとつない、満天の星空だ。神話の神の名を授かる星の軌跡たちの中心に、真ん丸の灯りが輝いている。  私の目には、その夜空は歪んで見えた。淀んだ空気が干からびた肺に取り込まれると、乱れた呼吸が混線し噎せ返る。 …苦しい。息苦しい。胸の奥が強い力で押さえ込まれているように、息がか細い。羽虫のように弱々しく、しかしてその心身はひどく醜く映る。  街往く人々は、どうして平気なのだろう。同じ空気を吸って、吐いている。同じ空の下を歩いている筈なのに、私だけが高山にいるようだ。  風穴の空いた胸から空気が漏れ出ているように、或いは、光ひとつ射さない深海の中で、今にも窒息しそうになる。 ──なのに、ああ。今夜は、今夜に限って。 ──月が、丸くて、綺麗だ。
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