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「新学期早々ズル休みしてんじゃねぇ」
「あっ、姉貴……」
DVD片手に路頭に迷う弟の背後で、いつの間にか現れた姉貴が仁王立ちしていた。恐らく夜勤上がりだ。目が座っている。
「真昼間からお盛んだな、我が弟よ」
「ちっちがっ、これはちょっと、違う……今俺、猛烈に悩んでて」
「何に?」
「愛に」
「ワオ」
姉貴は深夜の通販番組に出てくるマイケルのようなリアクションをした後、顎に手を当ててわざとらしく悩み始めた。
「相手は誰よ?」
「姉貴もよく……知ってるヤツ」
「あぁ! 優?」
「なんでそこで普通に優が出てきちゃうんだよ!!」
「だってほらぁ、私の主食だから」
「ゲスの極み!」
がっくりうなだれる俺の肩に姉貴はそっと手を置く。見上げると、菩薩のように微笑む姉貴が慈愛の瞳で見下ろしていた。
あぁ、俺達確実に餌にされた。
「要、目を閉じてみなさいな」
「え? あ、あぁ……はい」
「真っ裸の優がサバンナの真ん中で怯えています」
「なぜにそのシチュエーション?!」
「いいから! ……周りにはハイエナ、否、成人男性の群れ。襲いかかられるのも時間のうちよ。さぁ、要ならどうする?」
「どうするってそんなの……助けるに決まってr」
「そう!! それこそ要の奥底にある真理なの! 性別なんて関係ない。あんたは優が大切で誰にも奪われたくないのよ。これが紛れもない真実!」
政治家もびっくりの演説。姉貴はこれで筋が通ってると思ってるんだろうか。
ただとんでも演説の中でただ1つだけ揺さぶられるものがあった。
優の怯えた顔だ。
俺の中のS気質が暴れ出す。
優をああだこうだして遊んでいいのはこの世の中で俺だけだ。これも正に紛れもない真実!
「ありがと、姉貴。俺ちょっと行ってくるわ」
「後悔すんなよ我が弟。かっこいいぜ、最高にな」
「サンキュ」
あんなに肩が重かったのに今は空も飛べそうな気がする。男相手だって努力すりゃどうにだってなるさ。だって俺は……
優のことがーーー
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