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 だが小説を書くことほど、渚にとって魅力的な行いは存在しなかった。それは渚が、小説を書くという行為を、取るに足らない自分を高みへ導き、特別な存在にしてくれる、唯一の方法のように思っていたためである。  渚にとってそれは、漫画を描くことや、歌を歌うこと、スポーツをすることよりも、ずっとずっと高貴な行いだった。小説を書くことは渚にとって、醜いものが幅を利かせる現実の世界から、美しいものを引き摺り出すための、唯一の手段だったのである。だが筆は死んだように動かなかったし、頭の中は腐ったゴミ箱みたいだった。
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