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 だが所詮カワラブは、「妄想小説」の域を出なかった。つまり、盛り上がっているのは渚と佐紀だけで、読者の数もたった3人程度だった。    渚以外にも、そういう小説を書くものは学年に何人かいた。中でも隣のクラスのヨシダさんという生徒の書いた小説が、飛び抜けて人気だった。どうやらその内容は、渚の書いた「カワラブ」と、似たようなものらしかった。ヨシダさんは実際、「秋吉ファンクラブ」なる、公式に秋吉先生のファンを名乗る団体に所属している、いわゆる筋金入りのファンだった。そのためもあってか、生徒たちの間では、秋吉先生の性格や仕草についての描写がリアリティに溢れており、まるで史実を読んでいるようであると、もっぱらの評判だった。  渚にもヨシダさんの小説を勧められる機会が何度か回ってきた。だが頑なに読もうとはしなかった。それを読んで、面白いと思ってしまうことが、渚にはひどく怖かった。  
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