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   渚はその日まっすぐ家に帰る気がしなかった。全て忘れて、やさぐれたいような気分だった。だが平凡な女子中学生でしかない渚には、クラブで朝までやけっぱちに飲み明かしてくれる悪い友人も、麻薬を売りつけてくれる闇の人脈も、首をくくる勇気も、何にもなかった。結局渚にできることは、家の近所の裏道を歩くことくらいしかなかったのである。  渚は血走った目を道の左右にやりながら歩いた。とにかくなんでも良いから、いつもの日常とは一ミリでも違うもの、新しい世界へつれて行ってくれる何かを見つけたかった。渚が期待するものは例えば、知らない洋館へ連れていってくれる三毛猫や、異世界へ通じていそうな捨てられたクローゼットとか、そういうものだった。  しかし目に入るものは腐臭を放つ生ゴミや、季節外れの交尾に励む薄汚いどら猫ども、車に轢かれて死んだカラスの死体など、汚いものばかりだった。  渚の絶望は深まった。なぜ現実はこんなにも醜いのだろう。渚は水を探す砂漠の旅人のように、少しでも綺麗なものを探そうともがいた。そしてようやく青と茜色の混ざり合った美しい夕焼けを見つけて、それを吸い込むようにじいっと見つめた。  それだけが唯一、自分の求めているものに近いような気がした。上ばかりを向いて歩いているうちに、いつの間にかきたことのない路地裏の道へ入り込んでしまった。そこは怪しい風俗店やスナックが軒を連ねる、醜悪な世界だった。再開発が進み、新しいマンションが次々に出来上がってゆくこの街の中で、このあたりだけが回収され忘れたゴミのように、置き去りにされていた。そしてその道の突き当たりに、一軒の居酒屋があった。    今にも崩れ落ちそうな、汚く古い店だった。
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