月のまほう

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ヨウくんのおうちにはね、おとうさんがいるの。おかあさんはいない。 ふたりはとっても仲がいいんだよ。 おとうさんは、おれを見てヒェッてへんな声を出してびっくりしたけど、すぐに分かってくれた。さすがヨウくんのおとうさん。 けどね、「うちは貧乏だから、あと一人食べさせるのは無理だなあ」って困った顔をしたの。 おれ、ヨウくんのともだちになりたかったから、「お月さまのまほうで、お腹はすかないんだよ」ってうそをついた。 おとうさんは、そうなのか?ってちょっと疑ってる顔をしたけど、おれはいてもいいことになった。 その後すぐにうそだってバレて、「やられたなぁ~今更追い出せない」って困ったみたいに笑ったおとうさん。 きっと、あの時うそをつかなくても追い出したりはしなかった、やさしいおとうさん。 おれ、役に立ちたいってすっごい思った。 だから、おとうさんに教えてもらって、お洗濯と、お掃除を覚えたよ。 おとうさんは、「本当に助かるよ」って笑ってくれて、嬉しくて……おれ、ヨウくんもすきだけど、おとうさんも大好きになった。 お料理もしたよ。いちおう。 冷蔵庫は大体からっぽだったから、おそとで食べられそうなくさを取って来てね。 大丈夫、大丈夫。おれが先に食べて、あんしんそざいか確かめてるから。 一回ね、口の周りにぶわ~~~って赤いブツブツが出来て大変だった。 「かぶれたんじゃない?もう……」 心配そうなヨウくん。 「うん。今度から、あのくさはやめとく」 「草を食うのはやめないんだ」 ヨウくんが笑ってくれて、おれは嬉しくなる。 一緒にいられるだけで良かった。 ずーっとずーっと一緒だねって思ってた。 そしたらある日、おとうさんが帰ってこなかったの。 夜になっても、夜中になっても。 ヨウくんは泣くのをがまんして、おれに「仕事がおわらないんだよ、きっと」って言った。 おれは、ヨウくんといっしょのおふとんに入って、ヨウくんを抱きしめて眠った。 よく眠れなかったけど。 おとうさんは次の朝になっても帰ってこなかった。 その代わりに知らない大人のひとがいっぱい来た。 おとうさんはじこで ちょびっとだけ聞こえた。 じこ?じこってなあに? おれは、奥の部屋の押し入れに隠れてた。 「いいって言うまで出て来ちゃだめだよ」 ヨウくんがそう言ったから。 おれはじっと待ってた。 ヨウくんが、『いいよ』って言ってくれるのを。 けど……そのうちおそろしいくらいに静かになって、そおっとふすまを開けて出て行ったら、誰もいなくなってた。
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