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月明かりの決意
「月が綺麗だな」
当たり障りのないなんてことない一つの感想。陳腐も陳腐だけど、俺にとっても彼にとってもとてもリラックスしていることがよく伝わる言葉。
「そうだね、」
これ以上会話が膨らむ予感は一切ないけれど、ただ隣にいて、当たり障りのない会話をする。そして、これまた当たり障りの似ない返しが返ってくる。
傍から見たらつまらない二人組だと思うだろう、レストランとかにいけば何言ってんだろうって蔑む勢いだ。
「ずっとこうしていたい」
俗にいう一般的なデートだとこういう言葉が出てくることを聞いたことがある。そんなこと万が一にも敵わないのに、そんなこと万が一にも望んでなんかいないのに、ついつい言ってしまう。それはやはりこうしていることが幸せだと感じるからだろう。俺の場合これは”だったらいいな”のような比喩なんかではなく諸そうでありたいと願う心からの声。
「じゃあそうする?」
普通の会話にしてはちょっとおかしな路線に向かってると大抵は思うだろうが、彼との生活を2年以上してきた俺にとってその言葉には何の不信感も抱かない、彼のある種特別な思いが込められてることは分かる。
(カチャリッ)
俺の手にはめられたのは手錠だった。
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