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最終章 パーフェクト ビューティフル ワールド
「スウィート レインボー ハレーション!」
辺りに、光が走った。
闇に染まった筈の世界が、虹色に変わっていく。
やがて、全世界が虹に包まれた。
「こ、これは」
ラブリー エクスクラメーションズの二人の力が押し返されていく。
「きゃああぁぁぁっ!」
二人は、弾き飛ばされた。
「おのれ、プリンセス キューティー ダーリング!」
女王が、俺の方へと両手をかざした。
「死ね!今度こそ、闇へと還るがいい!」
強大な力が俺を飲み込んでいく。
俺は、吹き飛ばされそうになるのを踏ん張っていた。
「がんばれ!政勝!」
そのとき、敦の声がきこえた。
敦。
俺は、目を閉じた。
ルイの声も、きこえる。
「政勝君!しっかり!」
俺は、耳を、いや、心をすませる。
きこえる。
世界中の人々の祈りの声が。
夢魔だけではなく、今まで俺たちが関わってきた全ての人々の声が。
たくさんの人々の、妖精たちの、そして、魔法少女たちの祈りの声が、俺の心に直接、届いていた。
それは。
真の愛と正義を求める人々の心の声。
人々の祈りが、俺の中で力に変わっていく。
俺の体の中に眠っていた何か。
小さな、卵の殻がひび割れていくのを、俺は、感じていた。
「『夢の卵』が孵化する」
敦の親父さんが、呟いた。
ああ。
俺の体の中から、魔法が溢れ出してくる。
それは、全ての人間と、夢魔と、妖精と、魔法少女たちを繋ぐ力。
今。
俺の中で、新しい世界をなす力が産まれようとしていた。
「何だ?この力は」
女王が呆然として、呟く。
「この私を凌駕するほどの力、いったい、これは」
「これは」
夢魔の王である、敦の親父さんが、言った。
「真の愛の力」
俺の中で、何かが弾けた。
ふわっ。
俺の体を覆っているロングドレスが風をはらみ、フリルが広がっていく。
俺は、目を開いた。
同時に、俺の背に、白い大きな翼がひらいた。
俺は、静かに、言った。
「全ての祈りよ、今、天に届け!グラデェーション ラヴ イリュージョン!」
俺の体から、力が飛び立った。
それは、新しい世界を構築する真理の翼だった。
全てが、変わっていく。
世界の色も。
香り。
感触。
全てが。
新たなる愛の力に染まっていく。
俺の圧倒的な力の前に、女王が崩れ落ちた。
「女王!」
ラブリー エクスクラメーションズの二人が、駆け寄った。
女王は、二人を払い除けて叫んだ。
「私に、触れるな!」
女王の体が、石化してしていった。
固まっていきながら、女王は言った。
「かつて、夢魔の王が、私の愛を拒みさえしなければ」
女王は、笑っていた。
「私の愛を拒んだ故に、私は、お前たちに呪いをかけた。血を同じくするもの同士でしか、子をなせないように、と。お前たちは、ケダモノと成り果てた筈だった」
彼女は、俺の方へと手を伸ばしながら、言った。
「どこで、どこで、我々は、誤ってしまったのか、どこで」
女王の体が、完全に、石化していく。
「どこで」
俺へと伸ばされた指の先までが石と化し、やがて、砂となり、崩れ落ちていった。
そして。
世界は、変わった。
新しい世界では、全ての存在が、共に生きることができた。
妖精界と、人間界を隔てるゲートは、消え去った。
世界は魔力に満たされ、魔法は全ての人々の日常となっていった。
夢魔も、人間も、妖精も。
皆が、共に、存在する世界。
羅刹 佐々木と、リーゼント 田中さん。
修羅と、阿修羅。
かつて、妖精界を追われた者たち。
リリアン。
アンバー。
全ての存在が、共に、ある世界。
俺は、消滅した妖精女王ティターニアの後を継いで、妖精女王の座についた。
俺を支える魔法少女たちの中には、敦と、ルイの姿があった。
新しい世界には、愛が、溢れていた。
世界を動かすもの。
それは、愛、だった。
だが。
今は、俺たちの話に戻ろう。
今日は、文化祭。
俺と敦は、コスプレ喫茶でウェイトレスをしていた。
「すごいわね、美雪」
顔を出してくれた、里中さんと野々宮さんが、俺たちを見て囁く。
「ええ、かなりパワーアップしてるわね」
「いらっしゃいませ!」
俺と敦は、お客たちの視線を釘付けにしていた。
俺は、ミニの赤いチャイナドレスに、黒のスパッツ。
敦は、青いミニキモノドレスに黒のスパッツという姿だった。
人々が、口々に囁いた。
「とにかく、すげぇな、このクラス」
「ああ」
みんなが、納得し、頷いた。
「何か、突き抜けてるな」
「突き抜けてる」
俺たちのクラスのコスプレ喫茶は、この年の最も、人気のあったイベントとして伝説となった。
文化祭の日告白結ばれた二人は、永遠のカップルとなるという、言い伝えがあった。
俺は、ルイに告白するつもりだった。
でも、辞めた。
ルイは、何であれ、ずっと変わることなく俺の心の恋人だから。
三年生で、今年が最後になるルイは、敦に、告白し、撃沈した。
泣いているルイを、俺は、必死に慰めようとしたが、ルイが俺に言った。
「今だけは、一人にして。お願いだから。そしたら、きっと、二人のこと、許せると思うから」
敦は、俺に告白してきた。
俺は、それを、受け入れた。
180センチ越えのビッグカップルの誕生だった。
俺たちは、二人きりで文化祭の夜を過ごした。
「流れ星、か」
喧騒を離れて、校舎の屋上で二人、並んで、空を見ていた時、俺が言った。
流れていく、星に、俺たちは、黙って願い事を思った。
俺は、敦にきいた。
「何の願い事をしたんだ?」
「お前と、同じだよ」
「俺と?」
俺は言った。
「俺が、何を願ったかも、知らないくせに」
「知ってるさ」
敦は、俺の手を握って、そして、そっと、俺に口づけした。
俺たちの左手の薬指には、永遠の愛の契約の証が、煌めいていた。
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