1 最初から失恋確定!魔法乙男キューティー ダーリング見参!

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1 最初から失恋確定!魔法乙男キューティー ダーリング見参!

お前を守りたい。 たとえ、お前が決して、俺を愛さなくても。 俺の名前は、田村 正勝。 15歳。 高校一年生にして野球部の絶対エースといわれる俺には、弱点が二つある。 一つ目は、かわいいもの。 俺は、かわいいものに弱い。 いわゆる、乙男、だ。 なのに。 身長 180センチ、体重 75キロ。 子供の頃から鍛えてきたグラマラスボディーは、筋肉ムキムキ。 しかも、野球部員の宿命で、頭は、坊主頭だ。 漢の中の漢である俺にとって、自分が乙男であるということは、恥ずべきことだった。 だが。 子供の頃から、本当の俺の趣味は、お菓子作りに、手芸。 このことを知っている幼馴染みの伊崎 敦は、言った。 「人とは、秘密があってこそ、その人生は、深みを増す」 なんのこっちゃ! まったく。 訳わかんねぇ。 そして。 二つ目の弱点は、沢山 ルイだ。 ルイは、俺のもう一人の幼馴染みだ。 体が弱く、色白で、最強乙女顔のルイは、野球部のマネージャーをやっている。 本当は。 野球が好きなのは、俺じゃない。 ルイの方だ。 俺は、ルイが望むから、野球をやっている。 全ては、ルイの為に。 だが、ルイには、俺の他に好きな奴がいる。 それは、伊崎 敦、だった。 敦は、訳あって親父が引き取って面倒をみている親父の友人の子で、男の俺が言うのもなんだが、すげぇ、イケメンだ。 眼鏡をかけた、黒髪男子。 学年主席の敦は、うちの学校の人気者だ。 ラブレターの雨あられ。 奴に告白して撃沈する者の数は、両手の指に、足の指を足しても足りないくらいだった。 ただ。 惜しむらくは、うちの学校は、男子校なのだ。 本当、おかしいだろ。 俺たち、みんな、どうかしてるぜ! そんな訳で。 俺は、2歳年上のかわいいルイに、猛烈、片思い中なのだ。 このことは、ずっと、忍んでいるつもりだった。 本当に、俺は、見てるだけで、よかったんだ。 そんな俺たちの関係が揺らぐ様な出来事が起こるまでは。 その日。 野球部の部活が終わって、俺たちが帰路についたのは、もう辺りが暗くなる頃だった。 夏の大会の前で、練習は、かなりきつかった。 しかし。 俺は、ルイの 笑顔があれば、耐えられた。 「正勝君」 ルイは、俺のことをこう呼ぶ。 それは、子供の頃から、変わらない。 俺より、二つも年上なのに。 「何だ?」 俺は、ぶっきらぼうにきく。 ルイは、言った。 「この後、家でマッサージしてあげるよ」 「マジで?」 俺がきくと、ルイは、笑顔で言った。 「もちろん。大事な、大事な、エースだもの。エースの体調管理も、マネージャーの仕事だからね」 「ルイ」 高校三年生のルイにとって、今年が最後の夏だ。 俺は、心に決めている。 必ず、ルイを甲子園に連れて行く! 「絶対に、甲子園に一緒に行こうな!」 「うん」 「オヤオヤ」 暗闇から、声が聞こえた。 振り向くと、そこには、長い白髪のマスク姿のボンタンを着た、どうみても、昔の不良がいた。 「お熱いことで」 「何だ?お前」 俺がきくのと同時に、奴は、俺に鉄パイプで殴りかかってきた。 「ぐぁっ!」 俺は、鉄パイプで殴られて地面に倒れこんだ。 白髪の不良は、俺を見下ろして言った。 「まあ、特等席で見物してな。これから、あんたのかわいこちゃんがどうなるのかをな」 「何!」 俺は、痛みを堪えて立ち上がろうとした。 しかし。 黒い影の様な何が俺の体に巻き付き、俺を押さえつけていた。 体が動かない! 「正勝君!」 「あんたのお相手は、俺だろ?沢山 ルイちゃん」 「ええっ?」 白髪の不良は、ルイを捕まえにやりと笑った。 「うんと、楽しませてやるよ、ルイちゃん」 「嫌だ!」 ルイが叫ぶ。 奴は、ルイのシャツを剥ぎ取り、ルイを地面に押し倒した。 「嫌だ!正勝君、助けて!」 「ルイ!」 俺は。 ルイがピンチの時に、何も出来ずに見ているしかないのか。 誰か。 俺に力をくれ! 俺は、この世の全てに全身全霊で祈った。 俺に力を! その時。 時が、止まった。 「こんなところにいたのね。モノホンの乙女が」 俺が見上げると、そこには、ちっさいおっさんが、いた。 しかも、ボディービルダーを小さくした様な体つきをした、ビキニパンツのおっさんだった。 「誰が、おっさんじゃぁ!」 ちっさいおっさんが、切れて怒鳴った。 「そないなこという奴ぁ、見捨ててしもうちゃるぞ!」 「えっ?」 俺は、きいた。 「助けてくれるのか?」 「あんたが心を入れ換えたら、考えてみちゃるわ!」 「すごいイケメンのお兄さん」 俺は、ルイの為に全てを捨てた。 「お願いだから、助けてください」 「うーん」 おっ、いや、お兄さんは、可愛い子ぶったポーズで目をパチパチさせて、言った。 「アンバー、悩んじゃう」 「そこを、どうにか」 俺は、へりくだって言った。 「お助けください。アンバー様」 「でもぉ」 おっ、お兄さんは、体をくねらせて、俺を見つめながら言った。 「本当は、乙女じゃないとダメなのよぉ。どうしようかしら」 「お願いします」 俺は、頭を下げた。 すると、おっ、じゃなくて、お兄さんは、言った。 「いいわ!確かに、乙女の気配に導かれてきたんだから、あなたにあげちゃう!」 「はい?」 お兄さんは、俺に指輪を渡して言った。 「それを左手の薬指にはめるのよ!」 俺は、なんとか、体を動かして、指輪をはめた。 すると。 指輪が光を発した。 「エンゲージ!」 俺は、知らず知らずに叫んでいた。 「インフィニット ラブリー チェンジング!」 光が俺の体を包んだ。 俺の体を押さえつけていた影が消えて、俺は、解放された。 服が消え、裸の俺を光が包み込んだ。 次の瞬間。 俺は、赤いミニのチャイナドレスという姿になってキュートなポージングをとっていた。 「ラブリー プリティー スウィーティー!溢れる魅力は、無量大数!」 俺は、ビシッと、ポーズを決めて叫んだ。 「キューティー ダーリング!」 「へ」 白髪の不良が、言った。 「変態なのか?」 俺には、わかっていた。 こいつは、ひいている。 ルイも、俺の姿を呆気に取られて見つめていた。 俺は、叫んだ。 「覚悟しろ!乙男の敵め!」 「ふん」 白髪の不良が言った。 「これが、噂にきく、魔法乙女、か」 どんな噂だ? 俺は、思ったが、無視して叫んだ。 「ラブリー チェーン!」 俺の手からピンクのチェーンが伸びて、不良の体を縛りつける。 「死にさらせ!」 俺は、叫んだ。 「ラブ ピンク トルネード!」 ピンクのバラの花弁が、白髪の不良の体を包んだ。 不良が悲鳴をあげた。 「ぐぁっ!これはっ!」 不良が叫んで、鎖を引きちぎり、背を向けて逃げ出した。 「覚えているがいい、キューティー ダーリング!次に会うときは、必ず、雌雄を決してやる!」 「雌雄を決して、どうするんだよ」 俺は、呟いてから、ルイに歩み寄った。 「大丈夫か?」 「は、はい」 ルイが言った。 「誰か、知らないけど、助けてくれて、ありがとうございます」 えっ? 俺は、はっとした。 ルイは、このヘンタイが俺とは、気づいてないのか? ラッキー! 俺は、ルイに背を向けて言った。 「さらばだ。美しい乙男よ!」 「ま、待って」 ルイが背を向けた俺に呼び掛ける。 が、俺は、その場から走り去った。 「ルイ!」 5分後、俺は、物陰で変身を解いて、急いでルイの元へと駆け寄った。 「大丈夫か?」 「うん」 ルイが気丈に微笑んで言った。 「なんか、変な人が助けてくれたんだ。あの人」 ルイが言った。 「はみ出てた。ちん○が」 「ええっ?」 俺は、叫んだ。 「ヘンタイじゃん!」 「でも」 ルイは、言った。 「きっと、いい変態だよ。僕のこと、助けてくれたし」 ルイの言葉に、俺は、涙がチョチョ切れた。
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