10 妖精女王ティターニア現る!魔法の剥奪、さらば、魔法乙男よ!

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10 妖精女王ティターニア現る!魔法の剥奪、さらば、魔法乙男よ!

女というものが仮想空間のみの存在であるかのような我が高校にも、年に一度だけ、女が降臨する時がある。 それは、文化祭だった。 俺の学校は、男子校だったが、毎年、文化祭の時期だけは、学校内に女が出没するのだ。 それは、近隣の女子校と共同で文化祭を催すからだった。 なんでも、学校ができてからの伝統行事となっているらしい。 というわけで、その日、女子校の代表の女子生徒たちが学校を訪れるということは、数日前から知られていることだった。 大抵の連中は、浮き足立っていた。 伝説の女子高生を捕まえて、カップリングできる数少ないチャンスだったからだ。 まあ、俺には、興味のないことだった。 もともと、女の子に関心が薄かった俺だったが、この前の魔法少女対決の時のことをいまだに引きずっていたから余計に女に関心を持てないのだった。 いくら、ルイに恋心を全て捧げているこの俺でも、あれだけはっきりとキモいとか言われると傷つくのだ。 そういうわけで。 部活のみんなも、一目、女子の姿を拝もうとわきわきしている中、俺は、一人、真面目にグラウンドの整備とかに汗を流していた。 敦は、実は、生徒会で書記をしているから、今日は、女子対応があるらしかった。 「興味ない」 敦は、家を出るとき、俺に言った。 「俺が、興味があるのは、お前のことだけだ」 だが、今日、あいつが着ていたシャツが新品だったことを俺は、知っている。 しかも、いつもは、気にもしてないくせに制汗スプレーを購入していた。 それも、女子うけのいい、いい香りのするやつを。 「仕方がないわよ。敦も、お年頃なんだから」 アンバーが言った。 「いくら、女子に興味がなくても、むやみに嫌われたくは、ないんじゃないの」 「そうなのか」 俺は、グラウンドの隅の草取りをしながら言った。 俺は、女を知らない。 一人っ子なので、姉とか、妹とかもいないし、学校は、中高通して男子校だった。 ルイも、敦も、似たようなものだった。 今までの、俺の人生に介入してくる女は、お袋だけだった。 まあ、敦は、よくわからないところがある。 あいつは、女たちから、狙われるタイプの男だった。 いわゆる、肉食女子からすれば、敦は、理想的な獲物だった。 イケメン、眼鏡男子、しかも、頭脳明晰。 近隣の学校でも有名なのだと、前にルイからきいたことがあった。 確かに、1、2度、学校の行き帰りに敦を待ち伏せしている女がいたのを見たことがあった。 そんな敦が、俺のことを好きだという。 謎だ。 なぜ、俺なんか。 俺は、ルイみたいに可愛いこともない。 体型は、敦ほどじゃないが、背も高い方だし、がっしりしている。 しかも、坊主だ。 「毎日、見てるからでしょ」 アンバーが言った。 「ほら、本にあったわよ。人は、毎日見ているものが欲しくなるって」 「それは」 俺が、言った。 「たしか、殺人鬼のセリフだったよな」 「でも、人間の心理をついてると思うわよ」 アンバーが俺の肩にしなだれかかって言った。 「妖精だって、そうだもの」 「アンバー?」 俺は、言った。 「気持ち悪い」 「なんやって?」 アンバーが、キィーっと叫んで、どこかに飛んでいった。 「このガキが、いつか必ずなかしちゃるからのぉ!」 俺は、ため息をついた。 そのとき、人の気配に俺は、ふと顔を上げた。 そこには、近隣の女子校の制服を着た二人の女子が立っていた。 「あの、田村 政勝君?」 背の高いロングの黒髪の美少女(しかし、胸はない)がきいた。 俺は、頷いた。 「そうだけど、誰?」 俺が言うと、もう一人の少しぽちゃりしたセミロングの女子がうるうるした瞳で、俺を見ていった。 「ひどい。あたしのこと、お嫁にいけない体にしたくせに、覚えてないの?」 「はぁ?」 俺は、なんのことか考えていた。 そのとき、その子の豊満な胸に目がいった。 「ああ!もしかして、ラブリー エクスクラメーションズ?」 俺が大きな声で言うと、二人は、しぃーっと言って、俺を黙らせた。 「声が大きい!」 背の高い方の胸のない美少女が言った。 「あたしたちは、あんたたちと違って、世を忍んで活動してるのよ」 「俺たちだって、世を忍んでるぞ」 俺が言うと、二人がくすくす笑い出した。 「嘘、嘘、だって、動画、あげてるじゃん」 胸のない美少女が笑いながら言った。 「あれ、すごいよね。あたし、初めて見たとき、吹き出しちゃった」 「あたしは、特に、『本気で殴りあう女装コスプレの男たち』のやつ!」 豊満な方の女子が言った。 「あんなの、ユーチューブに流してるって、すごいわね。将来、お笑い芸人でも目指してるの?」 「目指してねぇよ」 俺は、ムッとして言った。 「なんなんだ?俺たちを嘲るためにこんなところまできたのか?」 「違うわよ」 背の高い、胸のない女が言った。 「今日は、文化祭の打ち合わせに生徒会としてきたのよ」 「何?」 俺は、きいた。 「お前たち、あの女子校の生徒だったの?」 「そうよ」 背の高い胸のない女が言った。 「あたしは、里中 愛。生徒会の書記をしてる高校一年生よ」 「あたしは、野々宮 美雪。二年生。文化祭の実行委員会の代表なの」 「あ、そう」 俺は、素っ気なく言った。 「お疲れ様、ガンバってください」 「ちょっと、待ってよ。あたしたち、あなたとお話ししたくてきたのよ。ちょっと冷たくない?」 里中さんが言ったので、俺は、返した。 「うちの生徒会に伊崎 敦っていただろ。話があるなら、あいつに、言ってくれ。俺は、知らん」 「だって、伊崎くんが、話があるならリーダーにって、言ったのよ」 野々宮さんの言葉に、俺は、眉をひそめる。 「リーダー?」 「違うの?」 里中さんがきく。 「あの、例の、女装コスプレ集団のリーダーなんでしょ?」 「何で、俺がリーダーなんだよ、俺は知らん!」 背を向けてその場から去ろうとした俺に、女たちは、言った。 「待ちなさいよ!さもないと、大きい声をだすわよ!」 「はぁ?」 俺は、言った。 「好きにしろよ」 「田村 政勝の正体は、キューティー ダ」 「話を聞こう」 俺は、慌てて言った。 二人は、顔を見合わせてにっこり笑った。 俺たちは、学校の近くにあるファーストフードの店でテーブルを囲んでいた。 「それで、俺たちとなんの話がしたいんだ?」 俺が聞くと、俺と一緒にきていたルイと敦が頷いた。 「俺たちの間に、何か、話すようなことがあったか?」 「いや、ないよね?」 ルイがシェイクをすすりながら言った。 「この前だって、いろいろ、壊して逃げてったし」 「誰が、逃げたって言うのよ!」 里中さんが、どんとテーブルを叩いた。 「だいたい、悪とつるんでいるのは、そっちじゃない!」 「悪って、何だ?」 敦がきいた。 「親父にきいたけど、お前ら、親父のことストーカーしてるらしいじゃないか」 「誰が、ストーカー、よ!」 里中さんが、顔を真っ赤にして叫んだ。 野々宮さんが、里中さんを制して言った。 「愛、おさえて!あなたたちも、言い過ぎよ。あたしたちは、別に、悪気があってしてるわけじゃないんだから」 「悪気がなくて、親父の家に盗聴器とか、仕掛けるのかよ」 敦が、言った。 ルイがきく。 「盗聴器?」 「ああ。しかも、特に、寝室に重点的に仕掛けられてたらしい。変態だな」 「そ、それは」 里中さんが口ごもる。 野々宮さんが言った。 「あたしたちは、妖精界の女王の命にしたがっているだけよ。別に、あなたのお父様が恋人にアンアン言わしてるのをききたくてやってるわけじゃないわ」 「聞いてるじゃん!」 ルイが言った。 「変態、だ!」 「ちょっと、待って!」 里中さんが言った。 「本当に、そういう目的じゃなかったのよ、ただ、ちょっとだけ、興味もあったんだけど」 俺たちは、二人を冷たく、遠い眼差しで見ていた。 二人は、慌てて言った。 「あたしたちは、別に、男同士でどんなことをしてるの、とか、興味も少しはあったけど、決して、覗きとかそんな目的でやっていたわけじゃないのよ」 「そう、あくまでも、正義のためよ、正義の!」 「正義って」 俺は、言った。 「何のための、正義だよ」 「それは」 里中さんがいいよどんだとき、突然、二人の背後から光が指してきた。 「私が話します。愛、美雪」 「女王!」 二人が立ち上がった。 二人の後ろから現れたのは、白いワンピース姿の淡い金髪の碧眼の美女だった。 美女は、二人の座っていた席に腰かけて言った。 「私は、妖精界の女王 ティターニアです」 「あ、ども」 俺たちは、頭を下げた。 女王は、きょろきょろ、辺りを見回していたが、やがて、言った。 「アンバーは、どこです?」 「は、ここに」 アンバーが現れた。 女王は、アンバーに言った。 「あなたは、また、男を魔法少女にするという過ちを犯してしまったのですね。リリアンのごとく」 「でも」 アンバーが言った。 「他に、適した乙女がいなかったから仕方なく、この子達を」 「お黙り!」 女王がアンバーを一括した。 「あなたといい、リリアンといい、本当に仕方のない人たちね。この件が済み次第、あなたは、リリアンと同じく、追放、です」 「ええっ!」 アンバーが、抗議の声をあげる。 「本気ですか?」 「本気も、本気です。ただし、無事に事が済んだ場合です。もし、済まなかった場合は」 「場合は?」 問うアンバーに女王は、ぴしゃりと言った。 「死刑!」 「そんな!」 アンバーが半泣きで言った。 「女王様ぁ!」 「今すぐに、私の前から消えなさい。アンバー。さもないと」 女王がアンバーを氷のような目で見つめていった。 「今すぐ、死刑!」 「はいぃぃぃ!」 アンバーは、すぐに、姿を消した。 「ところで」 女王が、俺たちを見た。 「あなたたちのことですが」 「はい?」 俺たちは、女王を見た。 女王は、邪悪な微笑みを浮かべて言った。 「魔法を剥奪し、2度と、魔法少女になれなくしてあげましょう」 「そんな!」 里中さんと野々宮さんが言った。 「女王!それでは、あんまりです。あんな、面白い、いや、真面目に、愛のために戦っているのに」 「そうです、女王!彼らは、彼らなりに愛と笑いのために身を捧げているのです。まあ、主に、笑いのためですが」 「何を言っているのです?ラブリー エクスクラメーションズよ」 女王が言う。 「この者たちは、いわば、妖精界の法を破って、魔法少女になった者たちです。本来なら、もっと、思い罰が与えられるべきなのです。それを、魔法の剥奪だけで許すと言っているのです。感謝なさい」 「しかし」 里中さんが言った。 「これからの戦いは、さらに、過酷なものとなります。この者たちの力も必要です」 「何をいっているの?」 女王が言った。 「だから、私が、来たのでしょう?私が戦います。あなたたちと私とで、夢魔 の王を倒すのです」 「しかし、女王!」 里中さんがなおも、言った。 「あたしたちは、夢魔の王たちをしばらく監視してきました。どう考えても、彼らは、ただの変態集団であって、我々が倒すべき悪のようには、思われません!」 「甘いのです!ラブリー アマリリスよ!」 女王が言った。 「悪は、小さな種のうちに潰しておかなくては、いけないのです」 「しかし」 「お黙りなさい!」 女王が厳しくいいはなつ。 「これ以上言うなら、あなたたちも、罰せねばならなくなりますよ、ラブリー エクスクラメーションズ!」 そして。 女王は、俺たちの方へと手をかざした。 すると、俺たちを包んでいた、キラキラ輝く光が消え、同時に、契約の証である指輪が消滅した。 「指輪が」 ルイが叫んだ。 「消えた!?」 「よいですか、あなたたち」 女王が、席をたって、去っていく。 「もう、このことに関わっては、いけません。関わればただではすまぬと思い知りなさい」 そうして。 女王と共に、俺たちの魔法も消え去った。
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