3 夢魔の罠!キューティー ラヴァー 見参!

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3 夢魔の罠!キューティー ラヴァー 見参!

夏の甲子園の地区予選大会、決勝戦の前日。 俺は、ルイに誘われて、練習の後、二人で近所の男山神社に参拝に行った。 長い階段を登っていくと、この街を見渡せる高台に出る。 そこで、俺とルイは、振り向いた。 沈む夕日が街を照らし出していた。 「綺麗だね」 「ああ」 俺は、頷いた。 俺たちが、産まれ育った街。 そして、おそらく俺たちが、もう少ししたら出ていくだろう街。 だが。 だからこそ、今この時が愛おしかった。 俺たちは、境内を過ぎ、神社に参拝し、明日の決勝戦の勝利を祈願した。 その時だった。 「神頼みなんて、ありえなーい」 いきなり、神社の社の扉が開いて中から、リーゼントに学ラン姿の不良と、巨大なアライグマの頭と尻尾を持った怪獣が現れた。 「ええっ!」 リーゼントの不良から、影が伸びてきて、ルイがからめとられた。 「ルイ!」 俺は、叫んだ。 不意に、アンバーの声が聞こえた。 「時間よ、止まれ!」 時が、静かに止まった。 「エンゲージ!」 俺は、叫んだ。 「インフィニット ラブリー チェンジング!」 光が俺を包み込んだ。 次の瞬間。 俺は、赤いミニチャイナドレスに、黒のスパッツという姿で、キュートなポージングをとっていた。 「ラブリー、プリティー、スウィーティー!溢れる魅力は、無量大数!」 俺は、リーゼントへと投げキッスをした。 「キューティー ダーリング!」 「おえぇぇっ」 失礼な輩が嘔吐しているのを横目に、俺は、言った。 「ルイを返せ!」 「ラスカルティー、行け!」 「キュッキュウー!」 アライグマの頭と尻尾を持った怪獣が、俺に襲い掛かってきた。 俺は、後ろに飛んで、怪獣の攻撃を避けた。 「おおっと、これが、見えないのか?キューティー ダーリング!」 リーゼントが、ルイを羽交い締めにして、ニヤリと笑った。 「このかわいいルイちゃんの顔を、二目と見れなくしてやっても、いいんだぞ」 「ぬぅ」 俺は、怒りのあまり、体が震えるのを感じた。 ルイを人質にするとは! 俺の動きが止まったのを確認すると、リーゼントは、笑いながら、言った。 「やれ!ラスカルティー、止めをさせ!」 「キュルッキュウー!」 ラスカルティーの鋭い爪が、俺のコスチュームを切り裂いて、俺のたくましい肉体を晒していく。 「くぅっ!」 俺は、アンバーを見た。 アンバーは、口笛を吹いた。 「にがゃあぁぁ!」 何処からか、白猫のオライオンが飛び出してきて俺の前に着地した。 しめた! 俺は、オライオンへと手を伸ばす。 その時。 ラスカルティーが、オライオンを鋭い爪の生えた両手で捕らえた。 「ぎにゃあぁぁぁ!」 オライオンの悲鳴があがる。 「殺れ!まず、その猫から片づけろ!ラスカルティー!」 「キュルッキュウー!」 ラスカルティーが叫んだ。 そして。 ラスカルティーは、嫌がるオライオンを無理やり、神社の手水舎の水で洗い始めた。 「ぎにゃあぁぁぁ!」 「くっくっくっ、ざまあみるがいい、ケダモノが」 リーゼントは、吐き捨てる様に言うと、俺を指差して言った。 「次は、お前の番だ!キューティー ダーリング!」 丸洗いされたオライオンが全身を揺すって水をはらっていた。 その横で満足気に佇むラスカルティーに、リーゼントは、言った。 「行け!ラスカルティー、洗ってしまうのだ!」 「キュッキュウー!」 ラスカルティーが、俺に襲い掛かってくる。 俺は、避けようと身構えた。 すると、リーゼントが、叫んだ。 「避けるな!キューティー ダーリング!避けたら、ルイちゃんの顔がギッタギタだぞ!」 「何!」 俺は、覚悟を決めた。 ルイの為に、奴に洗われよう。 ラスカルティーの鋭い爪が俺に迫る。 ポロン。 突然、ギターの音が聞こえた。 「何者だ?」 リーゼントが、きく。 そこには。 ブルーのミニのキモノドレスにスパッツという姿の、どうみても、俺より背丈のある、たくましい体つきの仮面の男が立っていた。 「新手の変態、か?」 リーゼントの言葉に、そいつは、ふっと、笑った。 「グラマラスで、クレイバー!溢れるチャームは、誘惑の罠!」 そして、仮面の男は、キュートなポージングで立って、叫んだ。 「キューティー ラヴァー 見参!」 「何ぃ!」 リーゼントが、言った。 「魔法乙女が、二人、だと?聞いてないぞ!」 「か弱い乙男の敵よ、覚悟!」 仮面の男は、リーゼントを指差し叫んだ。 「スウィート メルティー ストロング アロー!」 男の指先から矢が放たれ、リーゼントを射った。 「ぬぅ!」 リーゼントが撃たれた肩を押さえて、後ろに下がった隙に、俺は、ルイを奪い返した。 リーゼントが、怒鳴った。 「ラスカルティー!こいつらを始末しろ!」 「キュッキュー!」 ラスカルティーが、飛びかかってくるのを見て、俺は、叫んだ。 「ラブリー チェーン!」 「キュッ?」 ラスカルティーの体が、ピンクの鎖で縛り上げられ、奴の動きが止まった一瞬、キューティー ラヴァーが、叫んだ。 「プリティー アングリー クロウ!」 ラスカルティーの体が引き裂かれ、消えていく。 「しびし」 「なんの、まだまだ!」 リーゼントが、叫んだ。 「ジャイアント イリュージョン!」 「かしこまり!」 消えかけていたラスカルティーが叫び、巨大化していく。 「オライオン!」 俺が呼ぶと、奴は、返事もせずに、懸命に毛繕いをしていた。 「オライオン!」 俺が再び呼ぶと、奴は、ちらりと俺を見て、再び、毛繕いを始めた。 「いい子でちゅね、こっちにおいで、子猫ちゃん」 奴は、俺を見て、溜息をつくと、やっと、重い腰を上げた。 俺と、オライオンの体が宙に浮き、二つの体が重なる。 俺たちは、巨大化していった。 気がつくと、俺は、ミニチャイナドレスにスパッツ姿の巨大ロボットに変化していた。 「こい!ラスカルティー!」 「キシャァァァ!」 かかってきたラスカルティーを、俺は、冷凍サンマブレードでぶった斬った。 「雷電影心斬り!」 ラスカルティーが叫び声を上げて、消滅した。 「しびしび!」 「くそっ!覚えていろ!キューティー ダーリング!」 逃げようとしたリーゼントの前に、キューティー ラヴァーが、立ちふさがる。 「悪いが、俺は、物忘れがひどくってね」 「ぬぅ」 「さあ、全て、歌ってもらえうぞ!リーゼント!」 キューティー ラヴァーが、言った。 「なぜ、お前たちは、ルイを付け狙うんだ?」 「そ、それは」 リーゼントが、口ごもる。 キューティー ラヴァーが、近距離から、奴を指差し言った。 「スウィート メルティー ストロング アロー!」 どすっ。 鈍い音がしてリーゼントの太ももを矢が貫通する。 「ぎぃやあぁっ!」 リーゼントが、叫んで、倒れこんだ。 キューティー ラヴァーは、言った。 「次は、何処に風穴を空けて欲しいんだ?」 「わ、わかった、話す」 リーゼントが、言った。 オライオンとの合体を解いたミニチャイナドレス姿の俺と、ミニのキモノドレス姿の仮面の男、キューティー ラヴァーに挟まれて、観念したリーゼントは、言った。 「沢山 ルイの体内には、最凶の夢魔『ゴジラディアン』が眠っているのだ。だから、夢魔の王は、沢山 ルイを欲しておられるのだ」 「何?」 俺は、言った。 「最凶の夢魔だと?」 「ふん」 キューティー ラヴァーが、詰まらなさそうに。 「なるほど、それで、お前たちは、ルイを狙っているわけか」 「そうだ」 リーゼントが、頷いた。 「全ては、夢魔の王の統べる世界の為に」 「そんなもの」 キューティー ラヴァーが、叫んだ。 「決して、在りはしない」 そう言うと、奴は、リーゼントに止めをさそうとしたので、俺は、奴を止めた。 「やめろ!キューティー ラヴァー!」 「邪魔するな!キューティー ダーリング!」 俺たちが睨み合っている間に、何処からか伸びてきた影がリーゼントを拐っていった。 「何?」 振り向くと、そこには、白髪の不良、羅刹がいた。 奴は、リーゼントを担ぐと言った。 「さらばだ!キューティー ダーリングと、新たなる変態よ!」 「ぬぅ」 「誰が、変態、だ!誰が!」 キューティー ラヴァーが、叫んだ。 だが、奴らは、とてつもなく逃げ足が速かった。 「ぬぅ」 俺が呟いて、再び、キューティー ラヴァーの方を見ると、奴も走り去るところだった。 「キューティー ラヴァー!」 「さらばだ!キューティー ダーリング!愛を込めて、また、会おう!」 「いや、それは、結構です」 俺は、素直に言った。 変身を解いた俺は、ルイを抱き起こした。 「ルイ!」 ルイが小さく呻いてゆっくりと目を開いた。 「大丈夫か?」 「政勝君?」 ルイが、ふぅっと、溜息をついた。 「僕、夢を見てたのかな」 「どうしたんだ?ルイ」 「うん」 ルイが言った。 「この前の、変態の人が、友だちを連れて、僕を助けに来てくれた夢を見てたんだ」 「友だち?」 「うん」 俺がきくと、ルイは、頷いて言った。 「しかも、とっても、イケメンぽい、変態なんだよ」 何だ、それ? 俺は、何だか、腑に落ちないものを感じていた。
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