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4 男の友情! 対決! 修羅と阿修羅
今、俺たちは、夢の甲子園へと向かうバスの中だ。
「まさか、本当に、甲子園に行けるなんて」
俺の横に座るルイが頬を紅潮させている。
俺も、そんなルイに喜びを隠せない。
「言っただろ、必ず、甲子園に連れていくって」
その時、バスが急ブレーキをかけて、ルイが前の座席の背に頭をぶつけてしまった。
血。
「ルイ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、政勝君」
ルイの白い額に少し血が滲んでいた。
「どうしたんだ?」
監督が運転手の中村さんにきいた。
「い、犬が!」
中村さんが、少し、パニクって前を指差して叫んだ。
「巨大な犬が!」
「何?」
俺は、窓から顔をだして、前を見た。
そこには。
巨大な柴犬と、ラブラドールレトリバーが、寝そべっていた。
「夢魔よ!」
何処からか、現れたアンバーが言った。
「変身よ!政勝」
「ええっ?」
俺は、戸惑っていた。
「今?」
車内は、野球部員たちがどよめいていた。
「ちょっと、無理かな」
「何言ってるの!」
アンバーが言う。
「今やらなきゃ、甲子園へは、たどり着けないのよ!今でしょ、今!」
「ええっ!」
俺が二の足を踏んでいると、アンバーが叫んだ。
「時よ!止まれ!」
辺りのどよめきが静まる。
俺は、そっとルイの隣から抜け出して、バスから降りた。
「エンゲージ!」
俺は、バスの陰でそっと言った。
「インフィニット ラブリー チェンジング!」
俺は、光に包まれた。
次の瞬間。
俺は、赤のミニチャイナドレスにスパッツという姿で、キュートなポージングをとっていた。
「ラブリー、プリティー、スウィーティー!溢れる魅力は、無量大数!」
俺は、キュートに弾けた。
「キューティー ダーリング!」
「さあ!キューティー ダーリング、奴らを倒すのよ!」
「おう!」
俺は、二匹の犬たちの元へと走った。
すると、そこには、二人の子供が立っていた。
垂れた犬耳の、おかっぱ頭の、可愛らしいゴスロリの格好をした子供たちは、俺を見ると悲鳴を上げた。
「修羅、変態、だ!」
「阿修羅、怖いよぉ!」
二人抱き合って、震える姿まで、可愛らしかった。
俺は、動揺して、あわあわなっていた。
「ちょっと、待ってくれ、俺は、決して、怪しいものでは」
「怪しい奴だ!」
「怪しい奴なんだ!」
「ま、待ってくれ!」
俺が軽くパニックになっていると、二人の目がきらっと光った。
「シバイヌーン!レトリバーン!」
「今だ!殺っちゃえ!」
「がルルルル!」
二匹が俺を目掛けて飛びかかってきた。
しまった!
俺の脳裏を走馬灯のように、今までの人生が駆け巡った。
ルイとの日々。
野球三昧だった青春。
そして。
ルイのために、魔法少女となった、今の、自分。
だめだ!
俺は、かっと、目を見開いた。
今は、死ねない!
ポロン。
何処からか、物悲しいギターの音が聞こえた。
「誰だ?」
二匹の獣たちが動きを止めた。
バスの陰から人影が現れた。
「グラマラスで、クレイバー!溢れるチャームは、誘惑の罠!」
ブルーのミニキモノドレスにスパッツという姿の仮面の男がキュートなポージングで立っていた。
「お前は!」
子供たちが言った。
「新手の変態?」
「違う!」
男は、叫んだ。
「俺は、キューティー ラヴァーだ!」
「やっぱり、変態だよ、修羅」
「怖い、阿修羅」
二人が怯えるように抱き合って上目使いにキューティー ラヴァーを見ていた。
だが、奴は、躊躇うことなく、叫んだ。
「スウィート メルティー ストロング アロー!」
「ええっ!」
二人が驚いて叫んだ。
「僕たちを攻撃しちゃうの?」
キューティー ラヴァーは、鬼のように躊躇いなく矢を放った。
子供たちが悲鳴をあげる。
二匹の獣たちが、子供たちの前に出て二人を庇った。
「わおおぉん!」
「キュウン、キュウン!」
「キューティー ラヴァー!やめろ!」
俺は、叫んだ。
「いたいけな、子供たちに何をするんだ!」
「いたいけな子供、だと?」
キューティー ラヴァーが指差して叫んだ。
「あれが、いたいけな子供、か?キューティー ダーリング」
「ええっ?」
奴が指差したところには、ゴスロリ姿の二人の中年男が立っていた。
「ええっ!」
俺は、思わず二度見してしまった。
男たちは、呻いた。
「ぬうぅ!」
「おのれ、キューティー ラヴァーめ!」
「何!」
俺は、言った。
「こいつらは、妖怪だったのか?」
「誰が、妖怪、だ!」
二人が手を振り上げると、そこには、再び、子供たちの姿があった。
「よくも、僕たちの正体をあばいたな!」
「貴様らは、必ず、殺す!」
怒りに燃える二人は、叫んだ。
「ジャイアント イリュージョン!」
「かしこまり!」
二匹の犬の姿が、さらに、巨大化していく。
二人が叫んだ。
「行け!ジャイアント シバイヌーン!」
「奴らを殺せ!ジャイアント レトリバーン!」
「がルルルル!」
「アンバー!」
俺は、アンバーを呼んだ。
アンバーが飛んできて、俺に気色の悪いウインクをした。
「任せて!オライオン!」
アンバーが呼ぶが、何も起こらない。
アンバーは、焦って、もう一度、呼んだ。
「オライオン!」
やはり、何も、おこらない。
「アンバー?」
俺は、疑いの眼差しでアンバーを凝視した。
奴は、慌てて怒鳴った。
「こるぁ!出てこんかい!オライオン!」
何処からか、白猫が現れ、我々から離れた場所に座り、溜め息をついた。
「なんや、それ!」
アンバーがキィキィ言っていると、高笑いが聞こえた。
「相変わらず、愚かっぷりが止まらないな、アンバー」
「何ぃ!その声は」
振り向いた俺たちの前に、キューティー ラヴァーの肩に乗り、ギターをつま弾く小さなスナ○キンがいた。
「ふっ」
ちっさなスナ○キンは、叫んだ。
「ドール スレイザー!」
「にゃごーん!」
何処からか、黒猫が現れた。
スナ○キンは、キューティー ラヴァーに言った。
「さあ!合体だ!キューティー ラヴァー!」
「ラジャ!」
頷いたキューティー ラヴァーと、黒猫が宙に浮き、その体が重なった。
どんどん巨大化していく。
そして。
そこには、巨大なミニキモノドレス姿のロボットがそそり立っていた。
「きぃぃぃぃ!悔しい!」
アンバーが地団駄踏んだ。
「オ、ラ、イ、オ、ン!」
オライオンが、ため息をつき、立ち上がった。
俺とオライオンも宙に浮き、その体が重なる。
俺たちも、巨大化していく。
そして。
ミニチャイナドレス姿の巨大ロボットに変化した俺は、叫んだ。
「覚悟しろ!犬!」
「犬じゃない!」
修羅と阿修羅の二人が叫んだ。
「ジャイアント シバイヌーンとジャイアント レトリバーンだ!」
「何でもいいから、死ね!」
俺と、キューティー ラヴァーは、各々の手に冷凍サンマと日本刀を構えた。
そして、俺たちは、暫撃をくり出した。
「雷電影心斬り!」
「ライディング タイフーン!」
犬ころたちが、キューンと鳴いて、消滅していく。
「しびしび!」
「わあぁぁん!」
「シバイヌーン!レトリバーン!」
二人の子供の姿のおっさんが半泣きで叫んだ。
「貴様ら、覚えてろよ!」
「みんな、死んでしまえ!」
そういい残して、二人は、走り去っていった。
オライオンとの合体を解いた俺は、同じく、黒猫との合体を解いたキューティー ラヴァーに歩み寄った。
俺は、振り向き様の奴を思いきり殴った。
「ぐぁっ!」
奴が吹き飛ぶ。
「何をする!キューティー ダーリング!」
スナ○キンが叫んだ。
俺は、スナ○キン を払い除けて言った。
「お前とは、一度、きっちり話をつけなければならないようだ」
「ふん」
キューティー ラヴァーが血の混じった唾を吐いた。
「何のことだ?キューティー ダーリング」
「お前は」
俺は、言った。
「あまりにも、簡単に、敵を殺そうとしすぎる!」
「何を言っているんだ?」
奴は、立ち上がると、俺の方に歩み寄ってきた。
「敵を倒すのは、我々の任務だろう?」
「しかし」
言った俺を、キューティー ラヴァーが思いきり殴ってきた。
「ぐあぁ!」
今度は、俺が吹き飛ばされた。
「キューティー ダーリング!」
アンバーが叫んで俺の元へ飛んでくるのを制して、俺は、立ち上がった。
「貴様は、殺しすぎる!」
俺は、キューティー ラヴァーに殴りかかる。
応じるキューティー ラヴァーと俺は、殴りあいの喧嘩になった。
数分後。
路面に倒れた俺たちは、どちらともなく笑いだした。
そして。
立ち上がると、俺たちは、お互いの手を握り、固い握手をかわした。
「よかったね、政勝君」
走り出したバスの中で、ルイが俺に言った。
「甲子園、間に合いそうで」
「ああ」
俺は、答えた。
通路を挟んで隣に座っていたキャッチャーの大野先輩が俺にスマホを差し出す。
「政勝、これ、すげえぞ!」
「なんです?」
覗くと、そこには、二人の女装コスプレ姿の男たちが殴り合う動画が流れていた。
俺は、フリーズした。
「すげえだろ、政勝!『まじで殴り合う女装コスプレの男たち』っていう題名の動画なんだけど、まじ、ぱねえ!」
「そうっすね」
俺は、何とか、答えた。
「すげえですね」
誰が、ユーチューブに投稿したんだ?
俺の頭は、フル回転していた。
身体中に、変な汗が流れていた。
「すごいでしょ?」
アンバーが言った。
「言ってなかったかしら。あたし、ユーチューバーなのよ。ユーチューバー」
「ユーチューバー?」
俺は、アンバーを見た。
アンバーは、うふっと笑った。
「けっこう、人気あるのよ。あたし」
「そうなんだ」
俺は、すぐさま、アンバーをわしづかみにして、窓から車外へと投げ捨てた。
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