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6 恋の夏の乱!乙男乱舞!対決!クマーズ(前編)
俺たちは、いろいろあって、結局、第2試合でコールド負けをきした。
俺たちの夏は、終わった。
そして。
俺の恋も終わった。
俺は、最近、ずっと、部屋に引きこもっている。
心配した敦は、しょっちゅう、俺に声をかけてくれるが、それすら、うとましく思えた。
どうせ。
ルイに愛されている奴の優越だ。
要するに、余裕綽々だってこと。
俺には。
何も残されては、いなかった。
いや。
敦の愛だけが、残されていた。
でも、やっぱり今の俺には、うざいだけだった。
いくら俺がルイを好きでも、ルイは、敦が好きで、敦は俺が好き。
何だ、この恋の一方通行状態は。
こんなふうに。
俺は、頭をぐるぐるさせていた。
そんなある日のことだった。
ルイが俺を訪ねてきた。
ルイは、ずかずかと俺の部屋へと入ってきて、言った。
「いつまでも、落ち込んでないで、みんなでプールにでも行こうよ。政勝君」
「プール?」
俺は、ルイを見ながら、この前の夜のことを思い出していた。
敦の胸にまっすぐに飛び込んでいったルイ。
俺のことを振り向くこともないルイ。
俺の気も知らずに、ルイは、にこにこして言った。
「新聞屋さんにタダ券貰ったんだ。せっかくの夏休みなんだし、一緒に、行こうよ」
俺は、ルイを見つめた。
丸い、すんだ瞳。
かわいい、小動物みたいな邪気のないルイ。
ルイは、俺を見上げて上目使いに言った。
「ねえ、一緒に、行こうよ」
ああ。
くそっ!
なんて、かわいいんだ。
俺は、頷いた。
「行く」
こうして。
俺は、今、プールサイドにいるわけだったが。
「ねえ、敦、アイス食べようよ」
甘えたように、敦にまとわりつくルイ。
敦は、俺を横目でチラッと見て言った。
「ああ、わかった。俺が買ってきてやるよ」
「僕も、行くよ」
なんだ。
こいつら。
人前で、いちゃいちゃしやがって。
俺を気にしている敦に俺は、素っ気なく言った。
「俺は、待ってるから、行ってこいよ、敦」
「ああ」
二人は、売店へと向かった。
俺は、プールサイドで一人どかた焼け。
「何すねてるのよぅ、政勝」
アンバーが、俺の耳元で言った。
「男らしくないわよ、小さいことをいつまでも」
「どうせ」
俺は、言った。
「俺は、男らしくなんかないんだよ」
「そうだ」
アンバーが、にこにこ、笑って言った。
「焼きそば、買ってあげるから、元気出しなさいよ」
俺は、冷たい目で奴を見た。
こいつは、売れっ子ユーチューバーだ。
最近、コスプレして絡む男たちの動画で人気をはくしていた。
つまりは、俺たちだ。
こいつ、最低!
俺は、キィキィ言ってるアンバーを置き去りにして、プールへと歩いていった。
泳ごう!
運動は、いい。
こんなときは、体を動かすにかぎる。
プールに飛び込んだ俺に、監視員が叫んだ。
「そこの人、飛び込まないで!」
俺は、ギロリと監視員を見た。
そいつは。
「あれ?羅刹じゃないか」
「貴様は!」
白髪の不良、羅刹だった。
今日は、マスクを外して、水着姿で、白髪を後ろで縛り、そこそこ、まともに見えた。
それに。
こいつ、けっこう、いい体をしてるんだな。
俺は、奴にきいた。
「もしかして、バイト?」
「うるせぇ!話しかけるんじゃない」
持ち場を離れるわけにもいかないんだろう。
奴は、迷惑そうに言いつつも、その場を死守していた。
俺は、プールから奴を見上げてきいた。
「何?暇なの?」
「暇じゃねぇよ!」
羅刹がしっしっと手を振るが、俺は、かまわずつきまとう。
「なぁ、夢魔連合って、貧乏なの?」
「うるせえ!黙ってガキは、向こうで水遊びしてろ!」
奴が言ったとき、心配してやってきたらしい別の監視員が声をかけてきた。
「大丈夫か、佐々木君」
そいつは、リーゼントじゃないからわかりにくいが、確かに、田中とかいう奴だった。
俺は、笑いながら言った。
「何?あんたたち、二人で仲良くバイトかよ」
「げっ!」
田中が、嫌そうな顔をした。
俺は、プールから上がって、二人の側に近寄った。
こうしてみると、二人とも、まっとうな人間のように見えた。
俺は、きいた。
「何?もしかして、また何か、悪巧みしてるのか?」
「ちげーよ」
羅刹、こと、佐々木が、怒ったように言った。
田中が、俺に言った。
「今日は、真面目に、働いてるんだ。邪魔するな、ガキ」
「ええっ?」
俺は、言った。
「あんたたち、夢魔連合って、仕事じゃないの?」
「あれは、本業だ」
田中が、言った。
「だが、大人の世界は、厳しいんだ。本業だけでは、生きていけないこともある」
「へぇー」
俺は、面白がっていた。
「売れない芸人みたいだな」
「誰が、芸人だ!」
羅刹、いや、佐々木が、言った。
「もう、あっち行けよ。俺たちにかまうな!」
だが、俺は、こんな面白いことを捨てておくことは、できなかった。
「本当に、悪巧みしていねぇの?」
「してねぇよ!」
心底、迷惑そうに、佐々木が言った。
「あっち、行け!」
「あんたたち、二人でいつもつるんでるよな」
俺は、何気なくきいた。
「あんたたち、できてるの?」
「ばっ!」
田中が、慌てて言った。
「そんなわけ、ないだろ!」
「田中さん、俺のこと、そう思ってんすか?」
佐々木が、寂しそうに言った。
「俺は、田中さんのこと」
「ばか!こんなとこで、何いってんだ」
田中が、困った顔で、俺を見た。
「お前が、変なこと、言うから」
「変なことなの?」
佐々木が、言った。
「俺は、田中さんのこと、本気っすよ」
「佐々木君」
見つめ合う二人。
俺は、ため息をついた。
こいつらも、か。
俺は、ふん、と、そっぽを向いて歩き出した。
何で、俺だけ、一人なんだ。
どいつも、こいつも、いちゃいちゃしやがって。
そのとき。
急に、辺りが暗くなった。
拡声器を手にした二人の犬耳の子供が、ゴスロリの衣装に身を包み、プールサイドに現れて言った。
「たった今から、ここは、夢魔連合の支配下となった」
「覚悟しろ!お前たち!」
二人の背後から、二体の熊の怪獣が顔を出した。
白熊と、ヒグマ?
「ガルルルッッ!」
すげぇ、まさしく、飢えた熊、だ。
俺は、感心しつつも、ため息をついて言った。
「そういうの、やめてくれない?」
「何だと?」
「どういうこと?」
二人がきいてきた。
俺は、言った。
「今日は、そういう気分じゃないんだ」
「何?」
数分後。
俺と、二人のゴスロリ子供たちは、プールサイドに座り込んで話をしていた。
俺が、敦とルイのことを相談すると、二人は、親身に耳を傾けてくれた。
「そうか。お前も、いろいろあるんだな」
「とにかく、元気を出せ!」
阿修羅が、俺に、アイスを差しだして言った。
「アイスでも、食べろ」
「サンキューな」
受け取りながら、俺は、言った。
「さっき、佐々木?と、田中を見たんだけど」
「ああ、あいつら、ね」
修羅が、バカにしたように言った。
「あいつら、バカで、貧乏で、どうしようもない奴らだから」
「お前らは、バイトしなくても、いいのか?」
俺が言うと、二人は、にっと笑った。
「僕たちは、パパがいるから」
「ああ?パパ?」
俺は、きいた。
「何だよ、それ」
「時々、会って、お話ししたりしてあげたら、小遣いをくれるんだ」
「まあ、時々、それ以外のこともするけど」
二人があっけらかんと言った。
俺は、すごくひいていた。
「それて、援交?」
「違う!パパと、僕たちのことを、そんな汚い言葉で語るな!」
「そうだ、僕たちは、深い愛情で結ばれているんだ」
「そうなの?」
俺が遠浅状態になっていたとき、声がきこえた。
「二人とも、こんなところにいたのか」
「パパ!」
二人が、パァッと笑顔になって、立ち上がった。
俺は、二人のパパとやらの顔を見た。
そこには。
「親父?」
「なっ」
そこには、両手に焼きそばと、カレーを持った俺の親父が立っていた。
「ま、政勝」
「どういうこと?」
宇宙の果てまでひいている俺に、親父は、ひきつった笑みを浮かべて言った。
「ああ、今日のことは、母さんには、内緒だぞ、政勝」
「ええっ!」
ちょっと、待ってください。
父さん。
あなたは、何をしているんですか?
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