9 真の乙女は、どっちだ!対決!乙男VS乙女

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9 真の乙女は、どっちだ!対決!乙男VS乙女

「なんでこんなことに」 ミニシフォンドレス巣姿のルイがぶつぶつ言った。 敦が、言う。 「仕方ないだろう。振りかかる火の粉だ。払うしかない」 「何、ぶつぶつ、言ってるのよ!」 二人の本物の魔法少女は、激オコだった。 「何、あんたたち、まじで、男ばっかの魔法少女なわけ?本当、キモいんだけど」 ラブリー アマリリスが言った。 「特にそこの坊主頭の奴、いろいろスゴすぎ。マジでひくわぁ。化け物?」 「ぬぅ」 俺は、ラブリー アマリリスの言葉に、かなり深く傷ついていた。 確かに。 俺は、酷いかもしれないが。化け物はないだろう。 敦が言った。 「お前たちは、最低の魔法少女だな」 「なんですって?」 いきり立つラブリー サージェントチェリーに、敦は、言った。 「人の心を平気で踏みにじるような魔法乙女は、真の乙女とは、言えないんじゃないか?」 「そうだよ!」 ルイも言った。 「政勝君は、こんなたくましい外見だけど、料理も、手芸も得意だし、お前たちより、よっぽど真の乙女だよ!」 「何言ってるんだか。女装コスプレ変態集団が!」 ラブリー アマリリスが言った。 「あたしたち、本物の乙女に、あんたたちがかなうわけないじゃない!」 「そうよ!」 ラブリー サージェントチェリーも言った。 「真の乙女は、あたしたち、ラブリー エクスクラメーションズよ!」 「いや、政勝君の方が思いやりがあって、優しいよ!」 ルイが言った。 「この前だって、野球部の練習の帰りに、徘徊していたお爺さんがいたから、ちゃんと家まで送り届けてあげたんだよ!」 「そんなこと!」 ラブリー アマリリスが言った。 「あたしたちだって、この前、駅前で迷子の子供を見つけたから、交番まで送り届けてあげたわよ!」 「ああ、ちょっと君たち、待ちなさい」 敦の親父さんが、譲らない二人と、俺たちの間に入って言った。 「そんなに争うなら、どちらがより真の乙女なのか、勝負したらいいじゃないか」 そういうわけで。 俺たちは、場所を別荘の中のキッチンへと移して料理対決をすることになった。 「お題は、乙女の定番!バレンタインデーに本命に送るプレゼント、だ!制限時間は、一時間。審査員は、ここにいる、伊崎 諭吉と、見上 楓、それと、この私、田村 礼二郎だ」 親父は、俺たちを見渡すとすっと手を振り上げて言った。 「では、調理開始だ!」 俺たちは、それぞれに料理を作り始めた。 俺は、まず小麦粉と砂糖とベーキングパウダーをふるいにかけ、それに溶かしバター、牛乳、卵と混ぜて綿棒で伸ばし、可愛らしい型で抜いて、暖めたオーブンへと入れた。 クッキーが焼けるのを待つ間に、俺は、ココアパウダーと砂糖を少量のお湯で溶いたものに、温めたミルクを入れて、ホットチョコレートを作って審査員へ配った。 「気が利いてるね、政勝君、いや、キューティー ダーリング」 「本当に」 敦の親父さんと、見上さんに誉められ、俺は、少し、赤くなった。 「何、点数稼ぎしてるんだっちゅうの!」 ラブリー アマリリスが、泡立て器で俺を指して叫んだ。 「抜け駆けは、許さないわよ!」 「なら、あんたたちも、何か配ればいいじゃん」 ルイが洗い物を片付けながら言った。 「ぐぅ!」 ラブリー アマリリスが呻いた。 その傍らで何かしていた、ラブリー サージェントチェリーが小麦粉の入ったボウルをひっくり返して、悲鳴を上げた。 「きゃあ!」 「大丈夫?美雪」 「ごめん、愛」 ラブリー サージェントチェリーが真っ白い粉だらけになって半べそをかいて言った。 「ひっくり返しちゃった」 「大丈夫よ、ラブリー サージェントチェリー、私たちには、板チョコという強い味方がいるんだから。それを溶かして固めれば、最悪チョコは、作れるわ!」 「任せて、ラブリー アマリリス!」 二人は、鍋に板チョコを入れて火にかけた。 俺が、止めようとしたとき、辺りに、チョコの焦げた臭いが漂ってきた。 「な、なんか、おかしいわよ、ラブリー アマリリス!」 「そ、そうね」 ラブリー アマリリスは、ヘラで板チョコを混ぜながら言った。 「大丈夫よ!去年、パパと、お兄ちゃんに作ったときは、確か、これでいけたもの」 「そうなの?」 少し、ホッとした様子でラブリー サージェントチェリーが言った。 「なら、きっと、大丈夫ね」 いや。 大丈夫なわけは、なかった。 一時間後。 「まずは、キューティー ダーリングと仲間たちの作品から」 親父が俺の作ったクッキーを審査員のみなさんに配った。 一口食べた敦の親父さんは、ニッコリと笑って言った。 「おいしいよ、政勝君」 「アイシングが可愛くできてるね」 見上さんが言った。 「まさしく、乙女の手作りクッキー、だ」 「ありがとうございます」 俺は、頭を下げた。 「続いて」 親父が白い布の被せられた皿をもってきて審査員席の前に置いて言った。 「ラブリー エクスクラメーションズの作品」 すっと、布を取って審査員たちは、皿を覗きこんだ。 沈黙。 「これは」 敦の親父さんがきいた。 「何ですか?」 皿の上には、黒い、歪な形をしたチョコだったものの塊が、数個、並んでいた。 ラブリー アマリリスが、言った。 「チョコよ、チョコ」 「チョコ」 見上さんが言った。 「随分、なんというか、個性的な作品だね」 「前衛芸術的な感じだな」 親父が言った。 「ムンクの叫び的なイメージ?」 「猫、よ」 ラブリー アマリリスが言った。 「猫の形のチョコ」 「ああ」 審査員たちは、それぞれが納得したような表情になった。 親父が言った。 「それでは、次の試合は、生け花、で」 「食べないの?」 ラブリー アマリリスがきいた。 敦の親父さんが、いかにも驚いたという表情で言った。 「試食?これを?」 「こんな、独創的な、いや、可愛い猫ちゃんを食べるなんて、我々には、できないよ」 見上さんが言った。 「ねぇ?諭吉、礼二郎さん」 「もちろんだ」 敦の親父さんが真面目ぶって言う。 「こんなものを食べたら、我々は、人間性を自ら否定することになってしまう」 「ああ」 親父も真面目な顔で頷いた。 次は、生け花勝負だった。 「いいかい?お題は、ハロウィーンだよ。制限時間は、一時間。この別荘の敷地内にあるものは、何でも使用してかまわない」 親父が言った。 「それでは、始め!」 俺は、いきなり、外へと向かって走り出した。 ラブリー アマリリスが笑った。 「始まって、5分で逃亡かしら?」 30分後。 俺は、庭で拾ってきた松ぼっくりと木の小枝を抱えて戻ってきた。 そして。 小枝で作った小さな森の中に松ぼっくりを並べて、その横に小さなカボチャを置いて、何ヵ所かに、花をあしらった。 「すごい。植生感を出しながらも、ハロウィーンのイメージを損なっていない」 見上さんが言った。 「しかも、松ぼっくりで、可愛らしさを演出している。まさに、乙女の作品」 俺は、だまって、頭を下げて、お辞儀をした。 俺は、ちらっと、横目でラブリー エクスクラメーションズの二人を見た。 すごい、根拠のない自信に満ちた顔をした二人が、審査員たちの前に、どん、と大きな作品をおいた。 「イメージは、乙女の祈り、ですわ」 ラブリー サージェントチェリーが自信満々で言った。 「月の光の中、祈りを捧げる乙女をイメージして作り上げましたの」 「乙女の祈り、ねぇ」 突然、現れたリリアンがため息をついた。 「どう見ても、飾りたてた山嵐に見えるんだけど」 「そんな、失礼な!」 ラブリー アマリリスが言った。 「どの辺が、山嵐なのよ、どの辺が」 「この辺りかな」 敦の親父さんが全体的に突き刺されたバラの茎を指差して言った。 ラブリー サージェントチェリーが言った。 「そ、それは、乙女の夢を表現してて」 「乙女の夢?」 見上さんがきくと、ラブリー アマリリスが、言った。 「ベルサイ○のバラ、よ!ベルサイ○のバラ!」 「ええっ!」 ルイが驚きの声をあげた。 「どの辺が?」 「だから、この辺が」 ラブリー アマリリスが、バラの花を指差しながら言った。 「バラの花のさだめに産まれた乙女を表しているのよ!」 「なるほど」 敦が、ぽん、と手を打った。 「そういうことか」 「じゃあ、次の戦いは」 親父が言うと、ラブリー アマリリスが言った。 「まだ、やるんかい!」 「いや、その、チャンスは、きちんと与えないといけないだろう?」 親父が言うと、ラブリー サージェントチェリーが言った。 「もう、夜が明けるわ!ラブリー アマリリス!」 「いけない!早く帰らないと、抜け出したことがママたちにばれちゃうわ!」 ラブリー アマリリスが言って、二人は、慌ただしく壁に開いた穴から外へと駆け出した。 「次にあったときには、必ず、倒すわよ!夢魔の王!」 「首を洗って、待ってなさい!」 去っていく二人を見つめて、俺は、呟いた。 「本当の魔法少女って、こんな感じだったっけ?」 「こんなもんでしょ」 どこからか現れたアンバーが、欠伸をしながら言った。 「もう、寝るわよ、政勝。睡眠不足は、美容の敵よ」 「ああ」 俺は、のびをしながら、言った。 「あの子達、何しにきたのかな?」 「さあ?」 ルイが欠伸をして言った。 「壁を壊したり、窓ガラスを割ったり、いろんな破壊行動をしてたことは、確かだね」 「あの二人は」 敦の親父さんが言った。 「何かと我々に絡んでくるんだが、いつもこんな感じなんだ」 「ぐだぐだ、ですね」 敦が言った。 見上さんもため息をつく。 「そう、あの二人の目的が何かは、よくわからなくなってきてるんだよ」 「たぶん」 親父が言った。 「恵まれない家庭で寂しい思いをしているから、我々にかまってほしいんだろう」 「そうなのかな」 俺は、二人が消えていった方向を見つめていた。 いつの間にか、朝日がさしていた。
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