日引

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水島が和菓子屋で大福を買い、日引の家に到着した時にはもう十二時を回っていた。日引の家は普通の住宅街に建つ古い平屋建ての日本家屋だった。家の入口には小さな屋根のついた木の門があり、それをくぐって行くと足元には飛び石が蛇のようにうねりながら玄関まで続いている。その両サイドにはよく手入れされた庭木が品よく並んでいた。 水島を先頭に玄関まで行くと 「こんにちは~」 鍵のかかっていない引き戸をカラカラと心地よい音をたてて開ける。中からは懐かしい匂いがしてきた。祖母ちゃんの家のような匂いだ。水島は玄関のたたきに立ち中に向かってまた声を掛ける。 「はいはい。そう何度も言わんでも分かってるよ」 意外にも俺の後方から聞こえた声に驚いて振り向くと、そこには真っ白な髪を頭のてっぺんでお団子のように結い、淡い水色の着物をゆったりと着こなしているおばあちゃんが立っていた。顔はどこが目なのか分からないぐらいにしわくちゃな顔をしており、少しだけ腰を曲げるように立っているが、全体的に上品な印象を受ける。 この人が日引さんなんだろう。そう思った時、「チリン」と澄んだ鈴の音が聞こえた。音の出所を探すと日引の腰ひもの所に、小さな銀の鈴が付いている。その鈴は、日引が動くたびに「チリン」といい音を鳴らしている。
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