決行

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決行

きぬは、夕飯のお膳を持ち小屋へ向かった。しかし中々足が進まない。今度こそ本当の事を伝えなければと思っているのだが、足がソレを拒んでいる。ようやく小屋の前まで来るときぬは大きく息を吸い戸を開けた。 「?」 いつもなら蝋燭の灯りの元、遊んでいるチヨが見当たらない。小屋の戸は鍵がかかっている訳ではないので、外に出ようと思えば出られるのだがこれまでチヨは一度も勝手に出た事がなかった。 「もしかして!」 きぬはお膳を小屋の中に置くと、あの丘の方へと走っていった。少しだけ登りになっている道を、きぬはひと時も休まずに走って行く。 いた。 チヨは、ハルと共に小川のほとりにきぬに背を向けて並んで座っていた。きぬは息を整えると側に近寄って行った。側に行くにつれ、話声が聞こえてくる。チヨが話しているのだ。 「お母さん居なかったね」 「お母さん居なかったね」 「どこにいるんだろう?」 「どこにいるんだろう?」 「ここにいれば来るかな」 「ここにいれば来るかな」 きぬは胸が締め付けられるようだった。チヨの小さい背中が余計に小さく見える。
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