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きぬはこの村で生まれた子だ。双子に対しての村の風習は知っている。
(どうするんだろう・・・)
注意深くお産婆と子供の様子を見た。その時気が付く。後から生まれた子供の様子がおかしい。体の大きさは普通の赤ん坊と同じなのだが、泣かずにぐったりとしている。
(あれ?)
一体どうしたというのだろう?目が離せない。赤ん坊は産まれたら泣くという事ぐらいきぬでも知っている。しかし、その赤ん坊は一つも声をあげず力なくお産婆の腕の中でぐったりとしているだけだった。
その時、廊下の向こうからこちらにバタバタと走ってくる音がした。きぬはすかさず近くに身をひそめる。
来たのはご主人様だった。険しい表情をしたご主人様は、襖を勢いよく開け、中の様子を確認すると入って行った。
きぬは、また少しだけ襖を開け中を覗く。
ご主人様は奥様と話をしているが、その後ろにいるお産婆が突然、腕の中の赤ん坊の首を片手で絞め始めた。
「‼」
訳が分からなかった。そんな事をしたら死んでしまう。思わず悲鳴をあげそうになった自分の口を、手で押え必死でこらえる。すると、お産婆は事が済んだのかゆっくりと赤ん坊の首から手を離した。
きぬは、震えが止まらない体を何とか動かし仕事場へ戻った。しかし、あの衝撃的な場面はきぬの頭にこびりつき離れることはなかった。
その夜。きぬは体調不良という口実を作り、早々と女中部屋に行き床についていた。寝てしまえば、明日になれば忘れてしまうかもと言う淡い期待を抱えて。
「きぬ」
誰かが呼んでいる。
きぬはいつしか寝てしまっていたらしい。暗がりの中、声のする方を見ると誰かが座敷の入口に立っているのが分かった。
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