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裏切り
「旦那様・・・・・・旦那様」
きぬは主人の寝る部屋の襖を少し開け、中で眠っている主人に小声で呼びかける。中から絹連れの音と共に
「きぬか」
座敷の灯りが点く。
灯りの中で見るきぬは髪は乱れ着物の裾が濡れ、裸足の足は泥だらけだった。
「どうしたんだ!何があった!」
主人は慌ててきぬの元に近寄る。きぬは泣きそうな顔をしながら懐からあの般若の面を取り出す。
「これは・・・・・・」
驚いた表情から更に目を向き顔を引きつらせている。
「きぬは約束を守りました。ずっと耐えてきました。ずっと耐えてようやく約束を果たす事が出来ました」
そう言いながら震える手で主人の前に二つの般若の面を差し出す。
目の前に出された般若の面は濡れておりぬらぬらと異様な光を放っている。主人はその般若の面を受け取ることなく後ろへ後ずさりすると
「これは・・・・・・一体どういう事なんだ?あれだけやっても取れなかった面が外れたというのか?・・・・・・それにきぬ。約束と言っているが何の約束だ?私と交わした約束は、お産婆がハルを手にかけた事。しかしそれは母があの時家内に伝えてしまっているはず」
「え?」
きぬは呆然としてしまった。
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