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きぬの家は小此鬼家から小さな土地を借り細々と親子三人暮らしてきた。とても貧乏な暮らしだったが、優しい両親と一緒に慎ましく暮らしてきた。
しかし、土が悪いのか作物が思うように育たない。これでは、土地の借り賃どころか作物さえも小此鬼家に持って行くことが出来ない。義理堅い父はそれでは申し訳ないという事で小さなきぬを小此鬼家に奉公に出したのだ。
きぬは当時十二の女の子。親が恋しくないわけがない。それでもきぬは両親の為我慢をして働いてきた。
そしてあの日。チヨが七つの誕生日を迎えた日。きぬはもう十九歳になっていた。記念すべき日に、面が取れないという不可思議な事が起きた。本当にそんな事が起こる物なのかと不思議だった。
その夜。きぬが夜番を終え女中部屋へ戻ろうとしていた時に祖母に声を掛けられ普段使われていない座敷に連れていかれた。淡い灯りの中二人向かい合って座ると、祖母が
「こちらの言う事を黙って言う通りに聞いてくれるならば、お前の家に貸している土地の借り賃はいらない。土地はやろう。それに、事が済んだら家に帰ってもいい」
初めは、突然何を言い出したのかと思いすぐには理解できなかったが祖母は話をつづける。
「息子も家の者もあの女を疎ましく思っている。皆、理解しているから大丈夫だ。みんなお前の味方だから」
と。そしてその後、おぞましく恐ろしい計画を教えられたのだ。
「この小此鬼家を途絶えさせることは出来ない。あの子には(主人)新しい嫁を迎えるよう話すつもりだ。あの狂った母親は、何かの理由をつけて離縁させる。七つの誕生日を迎えても面が外れないなど、前代未聞の事・・・小此鬼家のご先祖に面目が立たない。
だから・・・・チヨを殺してほしい
それが出来たならば、さっき言ったようにお前は家に帰っていい。土地もやる。
・・・出来ますね」
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