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その次の日からだ。奥様の体が少しずつすぐれなくなったのは。
きぬは、毎日のチヨとハルの世話や般若の面の事で精神的に疲れているのだろうと、祖母から手渡されたにんにくを少し多めに食事に混ぜて出したりしていた。しかし、元気になるどころか悪くなる一方だった。
(あれは・・・・・・あれはにんにくじゃなかったの?・・・・・・だとしたら、もしあれが別の物で体を壊すようなものだとしたら、私が奥様を殺したようなもの。いいえ。私はにんにくだと思っていた。だってそう言ったもの。私は悪くない。あの人が私を使って奥様を殺したんだ)
座敷では祖母が淡々と今後どうするかを話していたが、きぬの耳に入らなかった。ずっとその事ばかりが頭の中をぐるぐると回っている。
「・・・・・・ぬ・・・・・・きぬ!」
「は、はい!」
祖母が自分を呼んでいたようだ。みんながきぬに注目している。
「こんな時にぼうっとしてるんじゃありません!・・・・・・きぬ。チヨとハルの方はあなたに任せます」
「え?・・・・・・任せるとは?」
「母親が亡くなったんです。その事を伝えてもらいたいの。私が言うよりあなたが言った方がいいでしょ?」
「そんな・・・・・・」
きぬはチヨの顔を思い浮かべた。何て言ったらいいの・・・・・・
その後、小此鬼家は母親の葬儀をしなかった。坊さんも呼ばず、家の者達だけで人目をはばかるように墓に埋葬したのだ。
そして今日までチヨ達に中々言い出せず、誤魔化しながら来たがもう限界だった。
本当の事が言えず、咄嗟にあの丘に行ったなどと嘘をついてしまった。洗い物の手を止めきぬは声を殺して泣いた。
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