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序章 童歌
私は揺蕩っていた。
口を薄く開くと、甘い湯が口内を満たす。
湯を飲もうとするが、上手く嚥下が出来ない。
ああ、息が苦しい。
この甘味をもっと味わいたい。
何故堪能出来ないのか。
私は薄く目を開けた。
白い一本の縄が
私の首を絞めている。
息が出来ないわけではない。
飢えて仕方がないのだ。
乾いて仕方がないのだ。
甘味を飲み込んで胃を満たしてしまいたい。
喉が絞まって嚥下が出来ないのだ。
縄を解こうと藻掻くが
狭くて体が思うようにならない。
苦しくて仕方がない。
焦れて仕方がない。
足で壁を蹴る。
柔く衝撃を飲むだけでびくりともしなかった。
もどかしさに自分の顔を掻き毟る。
気が狂いそうだ。
長く柔らかい爪は痛かった。
何れ程時間が経ったのだろうか。
気がつけば湯は何処にも無い。
私は螺旋の中にいる。
身体が濡れている。
誰かの手が私を掴んだ。
私は縄から開放された。
ああ、息が出来る。
私は鳴いている。
男の声と、若い女達の声。そして嗄れた女の声。
眩しい光に目が慣れた頃、私は薄く目蓋を開いた。
初めて目にした顔は、
疲れた顔に汗に濡れた髪を張りつけた、
御母様の顔だった。
ああ、御母様。
此れでお別れで御座います。
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