ほたる祭りの夜1

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 行動計画表は15分単位で、細かい活動目標と内容を記述しなければならない。一日の活動の終了時点、たとえそれが午前零時をまわっていたとしても、堂宮は計画した行動と結果のギャップ分析を行い、それをA4用紙に2,3枚のレポートとして完成させなければならなかった。  もちろん、働き方改革がさけばれて久しい昨今では、あまり無理な残業を強制することはできない。しかし、一日の終わりにレポートを提出することは田崎が決めた絶対ルールだった。  堂宮の会社には、ある裏ルールがはびこっていた。基本的に営業職には残業代はつかない。彼は裁量労働制という名のもとに、理不尽なサービス残業を強いられていたといっても過言ではない。社員として彼は毎日の残業時間を日々、管理ソフトに入力しなければならなかった。  当然のことながら、実際の実働時間を馬鹿正直に入力したのでは、すぐに労働管理者である田崎の上司、横山課長の目にとまることになる。そうなれば最悪で、堂宮は上司に向けた「残業理由書」の提出を求められるのだ。つまりは、半ば公然とサービス残業を強要する文化が堂宮の会社にははびこっていたというわけだ。  さらに最悪なのが毎週月曜日の午前中に開かれる営業会議である。堂宮たちは、この会議を「吊るし上げ」会と呼んでいた。実際、この会議はそれぞれの営業担当が追いかけている各案件の現状と次のアクション・プランを説明する場なのだが、実際は剛腕刑事による事情徴収だった。提案状況が芳しくないと、横山の口癖「ブレイクスルー案を細かく書いて今日中にレポートしろ!」が矢のように放たれる。
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