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そうこうしているうちに美弥子の頼んだカルボナーラが彼女の前に無造作に置かれた。
「堂宮君、お先にいただくね」
美弥子はクスッと笑い、フォークに手を伸ばした。
最初の一口をほおばると美弥子はこう語りかけた。
「いずれにしても、私たちには癒しが必要なようね。堂宮君は、そのピュアさゆえの苦悩、心の砂漠に一杯の澄んだ水が必要なのよ。私の場合はね、荒んだ心に暖かな癒しのワンピースが必要なのよ」
「なんだいそりゃ……」
堂宮は少しおどけてみせた。
「堂宮君、癒しといえばなにを連想する?」
美弥子は少し間をおいて堂宮に問いかけた。
「癒し? 家に帰ってテレビを見ながら冷たいビールをグイッとやる瞬間に、ああー、地球に癒されてるなー、って痛感するよ」
「なんだいそりゃ‥」
美弥子はさきほどの堂宮の言葉を物まねしてみせた。
「だって正直、癒しって言われてもピンとこないよ」
そこで堂宮が頼んだポークステーキがようやく彼の前に届けられた。
「癒しといえば、自然でしょ!都会の喧騒とおさらばして、田舎でのんびりしたいと思わない? 好きなときに寝て、好きなときに起きる。なにかに追い立てられることもなく、のびのびと、ただボーっとしながらのんびり心を癒すのよ」
「田舎? うーん、でも1日いたら退屈になっちゃうんじゃない?」
堂宮には、心安らぐ田舎での弛緩した生活は即座には想像できなかった。
「私の大学の後輩にね、いま誘われてるの?」
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